金縛りかもしれない、と自覚していても、身体が動かない…。一瞬「幽霊の仕業かもしれない」と思う金縛りの原因は何でしょうか。また、金縛りになったときの対策は可能なのでしょうか。

ベッドで寝ている女性

一説によると、一生のうちに金縛りにあう人は全体の30〜40%なのだとか。つまり10人のうち3~4人は金縛りにあっているわけですね。それでも個人差があり、連日のように金縛りにあう人もいれば、まったく無縁の人もいます。金縛りの正体は幽霊ではないと聞きますが、なぜ怖い思いをする人が多いのでしょうか。 青山・表参道睡眠ストレスクリニックの中村真樹院長に、その真相を伺いました。

 

金縛りで幽霊を見た体験談が多い理由

睡眠中に驚く男性

睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠の2種類があることは有名ですが、金縛りが起きるのは、レム睡眠の間だけと中村先生。
 
「レム睡眠時は、全身の筋肉が弛緩し、身体に力が入らなくなります。レム睡眠は比較的眠りが浅い状態であるため、脳は目覚めやすい状態にあります。このとき、身体がレム睡眠の状態のまま、突然脳が目覚めてしまうのが金縛りの正体で、正式には睡眠麻痺と呼ばれる現象です」(中村先生)
 
では、睡眠麻痺はどんなメカニズムで起きるのでしょうか?
 
「レム睡眠は、レム睡眠を維持する『REM-onシステム』とレム睡眠を抑制する『REM-offシステム』でコントロールされています。REM-onシステムとREM-offシステムが周期的に入れ替わることで、90〜120分ごとにレム睡眠をとれるようになっています。REM-onシステムは背骨の中を走る脊髄を介して、夢に合わせて身体が動いたり、叫んだりしてしまわないよう全身の筋肉にブレーキをかける信号を出しています。通常、目が覚めると同時にREM-offシステムが働いて全身の筋肉へのブレーキが解除されます。しかし、REM睡眠中に目が覚めたときにこのREM-offシステムが十分に働かないことで、脳が目覚めているのに身体が動かない状態(金縛り)が発生するというわけです」(中村先生)
 
なぜREM-offシステムが十分に働かなくなってしまうのでしょうか?
 
「睡眠不足や不規則な生活、ストレス、過労によってREM-on/REM-offシステムの切り替えが不安定になり、目が覚めてもREM-offシステムが十分に働かないことがあります」(中村先生)
 
仕組みは理解できるのですが、金縛りにあったとき、多くの人が霊的な現象を体験し、幽霊を目撃しています。「何者かが胸の上に乗っていて、息苦しかった」という話を聞くこともありますが、これらの現象も医学的に説明できるのでしょうか。
 
「レム睡眠時には夢を見るため、中途半端に目覚めると、夢と現実を混同してしまうことがあるのです。しかも、レム睡眠時は感情の動きをコントロールしている脳の部位(扁桃体)が活発に動いていて、恐怖感や不安感を感じやすくなっています。そのため、現実と混同した夢を幻覚のようなものと思い、恐怖を覚える人が多いのでしょう」(中村先生)
 
なるほど…。確かに普段も、寝ぼけて夢と現実を混同してしまうことがあります。金縛りという異変が起きているとすれば、なおさら混乱しやすいかもしれません。
 
「また、“胸の上に何かが乗っていて苦しい”と感じるのは、睡眠麻痺が起こると、呼吸をするための筋肉にも意図的に力が入りにくくなるためです。肺を膨らますための筋肉を意識的に動かせないため、胸が苦しく感じるだけで、実際に何かが乗っているわけではありませんよ」(中村先生)
 
金縛りのメカニズムは科学的に解明済みで、幽霊と錯覚することも、医学的に説明ができることなのですね。 怖がりの人も、これで安心して眠れそうです。

金縛りになりやすい人の特徴

ベッドで怯える女性

それでは、毎日のように金縛りにあう人がいれば、一度も経験したことがない人もいます。この違いは、どこにあるのでしょうか。
 
「金縛りの主な原因は、本来なら規則的にあらわれるはずのレム睡眠が、不規則に出現してしまうことです。不規則な生活や過労、精神的ストレスが原因となることが多いです。まれに、家族性といって遺伝的に金縛りになりやすいという人もいます」(中村先生)
 
金縛りにあいやすい年齢としては、生活が不規則になりやすい10〜20代の若い世代に多く、年齢が上がるにつれ起こりづらくなるそう。時間帯としては深夜帯、季節は夏のほうが出やすいといいます。夏に起こりやすい理由は明らかになっていませんが、寝苦しく、深い睡眠をとりにくいことが一因と考えられるそうです。ちなみに、ナルコレプシーの治療を受けている人は注意すべき点があるとのこと。
 
「きちんと睡眠時間をとっているのに日中に激しい眠気を感じるナルコレプシーの人は、眠りを維持する機能が落ちています。そのため、不規則に目覚めてしまうことが多く、金縛りにあいやすいようです。ナルコレプシー患者の20〜60%が、睡眠麻痺を頻繁に経験しています」(中村先生)

金縛りにあった時の対処法

眠れない男性

金縛りを予防するには、何よりも規則正しい生活を送ることが一番。シフトワークなどでどうしても難しいという場合には、睡眠の質を上げることを心がけましょう。何度も金縛りが繰り返され、十分な睡眠がとれずに日常生活に支障をきたすほどであれば、レム睡眠を出にくくする薬を服用するという治療法もあります。しかし、基本的には生活と睡眠習慣の改善によって防げるものだそう。
 
では、もし金縛りになってしまったら、どのように対処すればよいのでしょうか。
 
「一番の対策は、そのまま放っておくことです。無理に動こうとすると逆に身体が動かせないことへの不安が増すので、“金縛りだな”と思いながらじっとしているのがよいでしょう」と中村先生は言います。
 
「レム睡眠時は脳内でも感情に関わる部位の活動が活発になっているのに加え、自律神経をコントロールする部位の活動が不安定になっています。そのため、レム睡眠から突然目覚めると、不安感や息苦しさを感じることがあります。レム睡眠時に夢を見て目覚めると、夢がリアルな残像=幻覚として印象に残りやすく、そこに不安感や息苦しさが加わるため、なかには『心霊現象』と思ってしまう人もいるのでしょう。
 
通常、数分のうちにREM-offシステムが作動して金縛りは解消します。落ち着いて金縛りが終わるまで待てば、自然にまた眠ってしまうか、そのまますっきりと目覚めることが多いですよ」(中村先生)
 
金縛りにあっているときは焦ってしまって時間の経過が長く感じますが、実は数分の出来事。幽霊ではないという仕組みが分かってしまえば、何も怖いことはありません。もし金縛りにあったら、『今日は疲れていたのかな』『最近不規則な生活が続いていたからかな』と気楽に構え、やり過ごすのがよさそうです。

金縛りの予防法

ベッドで不安な様子の女性

金縛りを予防するには、何よりも規則正しい生活を送ることが一番です。基本的には金縛りは生活と睡眠習慣の改善によって防げるものだそう。ここでは金縛りの予防法をご紹介します。

リズムを整え十分な睡眠をとる

「リズムを整え十分な睡眠をとると、脳の中の睡眠を維持する『睡眠中枢』と覚醒を維持する『覚醒中枢』の切り替えや、REM-on/REM-offシステムの切り替えが正しく作動するようになります。すると、レム睡眠中に覚醒中枢が活性化して目覚めてしまったり、REM-offシステムが正しく作動しなかったりということが起きづらくなります」(中村先生)
 
金縛りが頻繁に起こるという人は、睡眠不足か、睡眠リズムが不規則なのかもしれません。まずは毎日規則正しい生活を送るように心掛けましょう。中村先生によれば、就寝は23時〜24時まで、成人(20〜50代)であれば、7時間前後の睡眠時間を確保することが理想だそうです。

過剰な飲酒を控える

金縛りを避けるには、過剰なアルコールの摂取は控えた方がよいのだそう。
 
「アルコールが分解され、身体から排出されるときには、REM-offシステムが解除されてREM-on状態になりやすくなります。眠る前に飲酒をすると、金縛りになりやすい状態を作ることになってしまうので注意が必要です」(中村先生)

夕方以降はカフェイン飲料を控える

眠気覚ましの定番と言えるカフェイン飲料ですが、飲むタイミングには要注意です。
 
「カフェインには覚醒作用があり、夕方以降にカフェインをとると睡眠中に覚醒作用が働き、眠りが浅くなりやすく、レム睡眠中に脳が目覚める可能性が高くなります。夕方以降には控えておいた方がよいでしょう」(中村先生)
 
日々の生活習慣を改善し、睡眠リズムを整え十分な睡眠時間をとることで、金縛りは予防することができます。金縛りが頻繁に起きている人は、生活習慣を改善してみてはいかがでしょうか。
 
監修:中村 真樹(青山・表参道睡眠ストレスクリニック 院長)
 
【医師監修】金縛りの原因は睡眠麻痺!そのしくみと症状とは

photo:Getty Images

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