理研が解き明かした、睡眠不足でも「記憶力」をUPさせる方法

「寝る間を惜しんで仕事や勉強をしても、記憶力が低下して逆に効率が悪い」なんて話を聞いたことがある人も多いはず。ところが2016年5月、「睡眠不足でも、脳の特定の場所を活性化させることで記憶力が向上する」という驚くべき研究結果を、理化学研究所(理研)の研究チームが発表しました。これまでの常識を覆す研究の詳細に迫ります!

研究で初めて明らかになった“睡眠と記憶力”の関係性

研究のチームリーダー・村山正宜さんは、「そもそも睡眠の役割とは何なのか、というのが研究のスタート地点だった」といいます。

 

これまで睡眠の役割は、「起きている間に知覚した体験を“記憶”として定着させること」と考えられてきましたが、その詳細までは解明されていませんでした。そこで村山さん率いる研究チームは、脳の中でも、意思決定や記憶に深く関わる高次領域から触覚を司る低次領域へと情報を伝える神経回路「トップダウン回路」に注目。どの時点の脳の神経活動が、記憶の定着に関わっているかを調べました。

 

<実験の内容>
(1)1日目。マウスを10分間滑りやすい床の上で探索させる。これを学習期間とする。
(2)一旦元のケージにマウスを戻し、自由に行動させる。この時、マウスは起きていたり寝ていたりする。
(3)2日目。マウスを半分が滑りやすい床、もう半分がデコボコの床に置き、どちらの床面をより長く探索するかを観察する。これをテスト期間とする。

 

村山さんによれば、マウスはなじみのない新しい環境を好んで探索する性質があるため、滑りやすい床よりも、初めて体験するデコボコの床をより長い時間探索するようになるそう。そこで、2日目にどちらの床に長く滞在するかで、前日に経験した床の質感を記憶しているかどうかが分かるといいます。

 

「学習後、(2)において、ノンレム睡眠(深い眠り)とレム睡眠(浅い眠り)のそれぞれの脳波を計測しました。すると、学習直後の睡眠では、ノンレム睡眠がよく現れて、レム睡眠はほとんど現れませんでした。そこで、学習直後のノンレム睡眠時にマウスの『トップダウン回路』の活動を抑制すると、次の日、(3)のテスト期間では記憶力が大幅に低下していました。学習から6~7時間後でもノンレム睡眠は現れたので、この時間帯でも『トップダウン回路』を抑制しましたが、次の日の記憶力は正常なままでした。この結果から、記憶を定着させるためには、学習直後のノンレム睡眠時における『トップダウン回路』が重要であると証明されたのです」(村山さん)

 

今回の実験から、学習の効率を上げるためには、学習直後のノンレム睡眠、すなわち寝入り時が大切だと明らかになりました。これまで漠然としていた睡眠と記憶の関係について1つの謎が解明され、睡眠研究にとっても大きな前進となりそうです。

寝不足でも記憶力はコントロールできる!?

さらに、研究チームは『トップダウン回路』を活性化させると、記憶力にどのような影響があるかを実験しました。

 

「実験では、寝不足状態のマウスと、寝不足だけど『トップダウン回路』を活性化したマウスとを使用しました。マウスは学習課題を与えた後、眠るたびに飼育ケージを揺さぶられ、寝不足の状態に。すると、寝不足のマウスの記憶力は大幅に低下したのに対し、『トップダウン回路』を活性化させたマウスは寝不足にも関わらず4日間も記憶を保つことができたのです。これにより、睡眠不足でも適切なタイミングで『トップダウン回路』を刺激すれば、記憶力をアップできることがわかりました」(村山さん)

 

一般的にマウスは1日約12時間睡眠をとる動物。その中で『トップダウン回路』の抑制や活性化の実験は各30分ほど行われたそうですが、総睡眠のたった4%の時間にもかかわらず、記憶力の向上や低下に絶大な影響をもたらしました

 

「質の良い睡眠は心や身体を正常な状態に保つ上で非常に重要です。しかし、記憶力の向上に関してだけいえば、必ずしも睡眠が必要ではない可能性が示されたのです。今回発見したマウスの記憶力を向上させる脳の刺激パターンを改良することで、睡眠障害による記憶力の低下に悩んでいる人の治療に役立てることも可能になるでしょう」(村山さん)

 

近年、磁気や電流を流して脳を刺激する装置が臨床でも用いられ始めていて、人の脳へ刺激を与えることも現実的に可能になっているのだとか。進化をとげる睡眠研究によって、将来は睡眠障害に悩まされている人はもちろん、一般の人でも記憶力を向上させてパフォーマンスをアップさせたり、高齢者の認知症予防につなげたりするなど、幅広い分野での活用が期待できそうです。

 

参考文献:睡眠不足でも脳への刺激で記憶力がアップ-記憶の定着に重要な神経回路を特定
監修:特定非営利活動法人森林セラピーソサエティ 瀬上清貴・鈴木舞恋

 

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photo:Thinkstock / Getty Images

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