茨城県民の不眠度が高いのはナゼ? 納豆消費量と不眠度の関係性とは

こんにちは。西村まさゆきです。みなさんは、よく眠れているだろうか。 

フミナーズ編集部は、全国の都道府県別に、就寝時刻や睡眠時間、よく眠れていると思うか、などの眠りに関するアンケートをとってみた。 

その結果、よく眠れている県の1位は島根県、2位は富山県、3位は青森県、となり、茨城県の人が最下位の47位だということが判明した。 

  まずは、ランキングをご覧いただきたい。

ランキング

上から順に、快眠度が高いということになる

このデータは、世界保健機関(WHO)が中心となって設立した「睡眠と健康に関する世界プロジェクト」が、不眠症を判定するために作成した「アテネ不眠尺度(AIS)」という世界共通の診断テストを、各県の10代~60代の男女にアンケートで答えてもらい、集計したものだ。 

ランキングを見ると、堂々の(と言っていいのかどうかは分からないが)最下位は「茨城県」。茨城県民は不眠度が高いという結果になった。 

同時に、心理的ストレスをどれほど感じているかのアンケートもとった。  

「K6スコア」と呼ばれる「心理的ストレス」を示す指標として広く使われるものを利用し、これも都道府県別にアンケートを取ったところ、以下のような結果となった。

ランキング

茨城県が1位=ストレス度が高い、ということに

ストレスを感じている人が一番多い茨城県が、一番不眠だと感じている…。  

この調査はあくまで「ストレスを感じている人がどれだけ多いのか?」という数をとったものであるため「原因」まではわからない。

いったい、茨城県民のストレスの原因はなんなのか?

いくつか仮説をたててみた。

 

納豆の消費が落ち込んでいるから?

2016(平成28)年の総務省の統計によると、全国の都道府県庁所在地の納豆の購入金額のランキングは、以下のようになっている。

納豆の購入金額のランキング

上位4市の購入金額の差はそんなにはないというものの、ランキング4位だ。 

2017(平成29)年度の調査では、購入金額で水戸市が3年ぶりに全国一位に返り咲いたらしいが、ともかく、納豆といえば水戸、茨城県といわれているわりには、飛び抜けて多いわけではなく、やっとこさトップクラスを維持している、という状況。  

これは、ストレスかもしれない。  

※参照:総務省統計局全国家計調査 http://www.stat.go.jp/data/kakei/

 

通勤時間が長いのが原因?

茨城県の位置をみてみたい。  

いくら東京に近いといっても、隣接しているわけではない。東京に出るには千葉や埼玉を経由しなければいけない。

納豆の購入金額のランキング

いくら常磐線やつくばエクスプレスが開業したとしても、やはり都心まで1時間程度は見積もらなければならない。  

これはストレスだろう。

 

お酒をあまり飲まないのがストレス?

ストレス解消を目的に、お酒を飲む、という人はよくいる。

心身の健康のために、過度な飲酒はよくないのだが、適量を守りつつ、友人などと会話を楽しみながら食事と一緒にお酒を飲むのはストレス解消になるだろう。  

国税庁の調査によると、茨城県の人たちのアルコール消費量は全国平均が81.6リットルなのに対し、67.4リットルと少ない。

ビールの消費量も、1年で約19リットルと、全国平均の25.7リットルと比較すると少なめだ。  

お酒を飲んで談笑する場があまりなく、ストレス解消できなくなっている状況が目に浮かんでくる。  

 

たまたま?

茨城県の人がよく眠れていない、というのは、各個人がバラバラに思っていることでしかなく、今回、たまたま茨城県がそうなっただけで、とくに理由などはないのではないか。  

以上、4つの仮説をたててみた。  

これって、実際のところどうなのか?   実は、このランキング最下位となった茨城県つくば市には、睡眠の研究を専門に行っている研究所がある。

なんという皮肉…というか、めぐり合わせだろうか。  

ぜひ、専門家の立場から、われわれがたてた仮説についての所見をいただきたい。  

というわけで、茨城県はつくば市にある「筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構」にやってきた。

筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構

まず「国際統合」というところがすごい。「国際を統合」、つまり、意気込みとしては「世界征服」と同じいきおいといっても過言ではない。

(※「国際」という言葉は「統合」にかかるのではなく、統合的な睡眠科学を研究する「国際拠点」という意味なんだそうです)

しかし、そんなかっこいい文言とはうらはらに、ネズミが眠るシンボルマークがかわいい。

筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構

この研究所、睡眠に関する研究においては、日本のみならず世界でもトップクラスの研究成果をあげているのだ。  

そんな中にノコノコ出かけて行っていいのだろうか…。

今回、対応してくださったのは、なんとこの研究機構の機構長。

国際統合睡眠医科学研究機構・機構長、柳沢正史教授

国際統合睡眠医科学研究機構・機構長、柳沢正史教授

 

フリーライター…

フリーライター…

 

西村

本日はお忙しいところありがとうございます。今日は、われわれがアンケートで調べた結果をご覧いただいて、所見を伺いたいと思ってきました。

 

柳沢先生

はいどうぞ。

 

西村

その前に、そもそも、この研究機構なんですが、いったいどういうことを研究されているのか、それが気になってます。

 

柳沢先生

そうですね、まず、ここで研究しているのはほとんどがハツカネズミの睡眠について調べているんです。

 

西村

え、そうなんですか…そういえば、シンボルマークもネズミが眠っているマークでした。

 

柳沢先生

この研究所には、10のラボがあって、それぞれ睡眠の研究をしているわけですが、人間の睡眠について調べているのはそのうちひとつ。ほかは全てハツカネズミを使った基礎生物学や、医薬化学の研究ですね。ハツカネズミの睡眠を調べれば、それはほぼ人間の睡眠の仕組みにも応用できるんです。

 

ハツカネズミ

 

西村

ほかに日本国内で睡眠の研究を専門に行っている研究所というのはあるんですか?

 

柳沢先生

睡眠に何らかの障害がある患者というのはとても多くて、臨床(医学的な)での睡眠研究所は多くあります。しかし、基礎生物学としての睡眠の研究所はほぼゼロです。日本で睡眠の基礎研究を行っている研究者の半分はこの研究所にいると思います。

 

西村

具体的にはどのような研究をしてるのでしょうか?

 

柳沢先生

睡眠学には大きな課題が2つありまして、まずひとつは「なぜ眠るのか」という疑問です。

 

西村

根本的な感じですが、それが分かってない?

 

柳沢先生

分かってないんです。脳がある動物はみんな睡眠をとりますが、生物にとっては敵にスキを与えるリスキーな行動ですし、活動時間も減ってしまう。はっきり言って一見無駄なのに脳のある生き物は全てが眠る、この理由が説明できないんです。

 

西村

脳を休めるためではないのですか?

 

柳沢先生

そんな気がしますよね、でも違うんです。実は、脳は24時間常に働き続けてます。眠ると少しだけ脳の「燃費」が減ることもあるんですが、それでも多く見積もっても2割ほどしか減らない。

 

眠っている子供

 

西村

睡眠は全人類が毎日必ずとるものなのに、その理由が未だに不明というのは本当に不思議な話ですね。

 

柳沢先生

そして2つめが「睡眠がどう調節されているのか」という問題です。それもよく分かっていない。

 

西村

睡眠の調節ですか?

 

そうです。脳は、近過去の睡眠量を何らかの方法で量っていて、なるべく決まった量の睡眠をとるように眠気を調節している。その積分器のしくみがわかってない。これをわたしはよく「眠気の正体が分からない」と言うんです。

 

西村

まったく分かってない?

 

柳沢先生

まったく分からない。

 

眠っている子犬

柳沢先生

そもそも、進化系統樹でいうと、昆虫も哺乳動物も、睡眠をとらないものからそれぞれ分かれて進化したのに、脳が進化するとかならず睡眠をとる仕組みになる。つまり、それぞれ進化した先で必ず、睡眠が発明されたように見える。これがなぜなのか分からない。「神様なにやってんだ」という話なんです。

 

西村

進化によって、睡眠が必要ない動物が誕生してもおかしくないのに、進化すると必ず睡眠をとるようになる…不思議ですね。…睡眠が分からないことだらけということは、わかりました。

 

忘れているかもしれないけれど、茨城県の件…

眠気の本質に迫る……

眠気の本質に迫る……

  柳沢先生の睡眠の話が圧倒的すぎて、うっかり忘れそうになったけれど、茨城県の件について…専門家としての見解を伺いたいと思います。

納豆の消費量が下がったから?

西村

事前にお送りしておいたのですが…この研究所のある茨城県が、実はよく眠れてないという人が日本でいちばん多いという結果になったんです。しかし、なぜなのかがよく分からない。そこで、いくつか仮説を考えてきました。まずはこちらです。

納豆の消費量が下がったから?

納豆の消費量が減ったから(ボードには「消費が下がったら?」と書いてありますが「消費量が減ったから」が正しいです)。

納豆の消費量が下がったから?

柳沢先生

うーん、それはないだろうね(即答)。

 

西村

でしょうね…。

 

柳沢先生

昔あったよね、どっかのテレビ局で納豆を食べると痩せるとかやって、スーパーから納豆が消えた事件。

 

西村

ありましたね…基本的に、納豆の消費量が下がったとしても、ストレスになるほどじゃないですよね…。

 

納豆の消費量が下がったから?

柳沢先生

みなさん、知らないかもしれませんけれど、茨城県は立派な農業県で、例えば、メロンの生産量なんかは日本一なんですよ。ほかにもレンコンなんかも日本一ですし、つまり、なにが言いたいかというと、納豆だけ調べてもだめなんですね。レンコン、メロンとの相関も調べないと。でも、それは意味がないと思うのでやらなくても大丈夫です。

長距離通勤の人が多い

長距離通勤の人が多い

西村

気を取り直して次です。通勤距離が長いと、朝早く起きなけれればいけない。睡眠時間も短くなる……総務省統計局の調査では、通勤時間が長い都道府県の9位に茨城が入ってます。

 

柳沢先生

なるほど、ちなみにいちばん通勤時間が長い県はどこですか?

 

西村

神奈川県、埼玉県、千葉県、東京都、兵庫県、奈良県、大阪府、京都府、で、茨城県です。

 

柳沢先生

神奈川県は快眠ランキング、37位…あまり関係なさそうですね。

 

西村

ぼくも薄々思っていました。

 

お酒の消費量が少ないから?

お酒の消費量が少ないから?

西村

(ボードは、お酒を飲まないとなってますが)お酒の消費量が少ないから。不眠のストレスには、お酒やタバコの消費量が実は関係しているのでは?

 

柳沢先生

うーん、それはありうるかなあ。ちなみに、1位はどこですか?

 

西村

アルコール消費量1位は鹿児島ですね、宮崎、東京、秋田、青森、新潟と続きます。鹿児島は快眠ランキングでも4位と上の方ですね。

 

お酒の消費量が少ないから?

柳沢先生

睡眠学的には、お酒は良くないんです。

西村

「寝酒を飲む」なんていいますけど。よくないんですか?

 

柳沢先生

よくないですね。アルコール自体には催眠作用があるんですが、そこまで行くにはかなり酔っ払わないとだめなんです。で、そこまで飲むと、アルコールが数時間後にはアセトアルデヒドになる。

 

西村

アセトアルデヒド、二日酔いとか頭痛の原因になるやつですね。

 

柳沢先生

そうです。アセトアルデヒドには覚醒作用があるので、睡眠を浅くしちゃう。よくあるパターンは、深酒しちゃうと、パッと寝られるんだけど、数時間後に起きちゃう。

 

西村

ということは、本来は、お酒をよく飲む県、鹿児島や宮崎といった県が、よく眠れてないということにならなければいけない。ということになりますね。

 

柳沢先生

そうですね、アテネ不眠尺度とかK6とかいう調査とはあまり関係がないことになっちゃう。

 

西村

そうか…。

 

たまたま?

西村

ではもう、最終的にはこれでしょうかね?

 

たまたま?

西村

たまたま?

 

柳沢先生

そうですね、その可能性もありますね…。

 

西村

うーん、なるほど。

 

西村

どうも、ストレスの原因に地理的要因はあまり関係ないかもしれないですね…。

 

たまたま? なのかな?

日本を代表する睡眠学の先生に、我々の仮説を見てもらう……という稀有な体験だったのだが、結局なぜ茨城県がいちばん不眠なのか? 

の謎はよく分からず、不眠の人が多い理由に、地理的要因はあまり関係ないかもしれない…という可能性も否めない、という結果になった。  

しかし、茨城県に不眠気味な人は多いという結果は出ている。  

 

西村

茨城県がなぜ不眠が多いのか、具体的な理由は分かりませんでしたが、実際に不眠気味な人は多いのは世界的に見て、日本全体にいえることかと思います。実はぼく自身も先日仕事が忙しく、最近うっかり徹夜してしまったんですが。

 

柳沢先生

ダメですね。眠らずに仕事をしても、仕事にならないでしょう? 特にライターのようなクリエイティブな仕事は、睡眠をとらないとだめです。

 

西村

おっしゃる通りだと思います。

 

柳沢先生

眠る時間を確保しないのは、仕事をサボっているのと同じことなんです。眠らずに仕事すればなんとかなるといった考え方の人が日本には多すぎますね。

 

西村

まったく、ぐうの音も出ません。

 

柳沢先生

欧州のシンクタンクが最近、睡眠不足によってどれだけ経済的損失があるのかを算出したら、日本は15兆円、GDP比で3%の経済的損失が出ていることが分かりました。これは、G20の中でいちばん多い。

 

西村

寝不足が原因で東京湾アクアライン10本作れるほどのお金の損失…。寝不足をやめれば、それだけで3%の経済成長が望めるのですね…。では、どれぐらいの時間、眠ればいいんでしょう?

 

たまたま? なのかな?

 

柳沢先生

それもよく聞かれます。個人差がありますが、殆どの人が6〜8時間の睡眠が必要です。

 

西村

「ショートスリーパー」とか「3時間睡眠でいい」なんて人の話を聞くことがありますが…。

 

柳沢先生

それはおそらくただの寝不足の状態なだけです。3時間しか眠っていないひとは、ところどころ居眠りしてるか昼寝してるか、どちらかでしょうね。人は昼行性なので、眠るのはなるべく夜のほうがいい。あるいは、もっとヤバい「眠気を感じない慢性的寝不足」状態かも知れません。

 

西村

昼間眠ってもだめなんですか?

 

柳沢先生

睡眠の質があまりよくならないんですね。そういうのは「ソーシャルジェットラグ」といって、常に時差ボケしているような状態で結局寝不足になってしまうんです。

 

西村

時差ボケが続く状態か…それはしんどい。どうすればいいんでしょう。

 

柳沢先生

よく勧めるのは、いつもの睡眠時間プラス1時間余計に眠ることを、とにかく1週間ほど続けてみる、ということです。

 

西村

プラス1時間余計に。

 

柳沢先生

そうすると、自分の最適な睡眠時間がだいたい分かるようになります。とにかく、毎日決まった時刻に決まった時間だけ眠ることが大切なんです。

 

西村

生活の中で、睡眠のリズムをちゃんとつけるのが大切…分かりました。

 

不眠気味な人は、規則正しい睡眠、できれば、7時間プラスマイナス1時間の睡眠を心がけてみるしかない。  

ぼくもちゃんと眠ろう…。

たまたま? なのかな?

 

photo:Getty Images

西村 まさゆき

執筆

西村 まさゆき

ライター。鳥取県倉吉市出身、東京都中央区在住。めずらしいのりものに乗ったり、地図で見た気になる場所に行ったり、辞書を集めたりしています。著作『ファミマ入店音の正式なタイトルは大盛況に決まりました』(笠倉出版社)ほか。移動好き。好物は海藻。


※体験談は個人の感想であり、特定の効能・効果を保証したり、あるいは否定したりするものではありません。
編集部内で信頼できると判断した情報、並びに医師や専門家への取材を元に信頼性のある情報提供を心がけておりますが、自己の個人的・個別的・具体的な医療上の問題の解決を必要とする場合には、自ら速やかに、医師等の適切な専門家へ相談するか適切な医療機関を受診してください。(詳細は利用規約第3条をご確認ください)