「睡眠負債で糖尿病リスクが上昇!深く長い睡眠が血糖値を下げる」

睡眠負債で糖尿病リスクが上昇!深く長い睡眠が血糖値を下げる

世界的に糖尿病患者さんや糖尿病予備軍の人たちが、爆発的に増えています。

国際糖尿病連合の統計によると、2017年の世界の糖尿病患者数は4億2,500万人で、2年前より1,000万人も増えました。

20~79歳での糖尿病の有病率は8.8%で、11人に1人が糖尿病患者さんと推定されています。

 

どんどん増えている糖尿病患者さんとその予備軍

世界で糖尿病患者さんが多い国の順位は、1位が中国で1億1,400万人、2位はインドで7,300万人、3位はアメリカで3,000万人となっています。

日本は2015年の調査では世界で9位でしたが、2017年の調査では上位10位から外れました。ただし、65歳以上の糖尿病患者さんの数は多く、2017年には世界第6位の430万人もいます。

 

厚生労働省が実施した「平成28年 国民健康・栄養調査」によると、糖尿病が強く疑われる人は日本人の12.1%、約1,000万人に上ると推計され、平成9年以降、増加しています。

また、糖尿病の可能性を否定できない人も約1,000 万人と推計され、こちらは平成19 年以降、減少しています。

厚生労働省は、糖尿病予備軍が減ってきているのは、特定健康診査(いわゆるメタボ健診)による予防効果が出てきたためと見ています。

 

糖尿病患者さんの半数に睡眠障害がある

久留米大学の研究によると、糖尿病患者は健康人に比べて寝つきが悪く(入眠障害)、夜中に目覚めやすく(中途覚醒)、朝早くに目が覚めてしまう(早朝覚醒)傾向が明らかでした。

また、糖尿病がない人では、眠っている間に息が止まる「睡眠時無呼吸症候群」の割合は数%ほどですが、糖尿病患者さんでは4人に一人で睡眠時無呼吸症候群が見られました。

 

海外での調査では、糖尿病患者さんの半数に入眠障害や中途覚醒が週3回以上見られています。

糖尿病がない人の睡眠障害の割合は2~3割ですから、糖尿病の人はかなり高い確率で睡眠の問題を抱えています。

 

糖尿病の重症度を表すHbA1c(ヘモグロビンエイワンシー:正常値 6.5%未満)と睡眠障害の関係では、 HbA1cが高くなるほど「寝つきが悪い」と答えた人の割合が増えます。

HbA1cが5.8%未満の人では、寝つきが良い人が45%、寝つきが悪い人が20%でした。

一方、HbA1cが8.0%以上の糖尿病患者さんでは、寝つきが良い人が28%、寝つきが悪い人が32%でした。

 

また、糖尿病患者さんでは、夜間の低血糖が心配で間食をしたり、脚のしびれ・痛みを紛らわせるためにアルコールを飲んだりすることがあります。

眠る前の食事や寝酒は睡眠の質を悪くするので、これらのことが睡眠障害の原因の一つになっています。

糖尿病患者さんは、睡眠の悩みを医療スタッフに訴えにくいようです。

 

糖尿病ネットワークが行った調査によると、睡眠に関する悩みの相談を受けたことのある医療スタッフは71%、ほとんど相談されたことがない医療スタッフが26%でした。

一方で、睡眠について悩んでいるが相談したことがない糖尿病患者さんが、20%もいます。これからは、医療スタッフの方から睡眠の悩みを積極的に聞き出してもらえるといいですね。

 

睡眠時間が短いと糖尿病に2~3倍なりやすい

不眠症や睡眠不足だと、肥満や糖尿病になりやすいことが明らかです。

欧米で6,000人以上の中年男性を対象に15年間行われた追跡調査では、不眠がある人はない人に比べて、糖尿病を発症するリスクが1.5倍に上昇しました。

 

日本で行われた調査でも、同様のことが明らかになっています。

糖尿病ではない男性約2,600人を8年間、追跡調査したところ、寝つきが悪い人(入眠障害群)はそうでない人に比べて糖尿病を発症するリスクが3.0倍になり、夜中に目が覚めてしまう人(中途覚醒群)はそうでない人に比べて2.3倍に上昇することが分かりました。

 

睡眠時間と糖尿病の発症率にも関連があります。

約1,500名の一般人を対象に、平均睡眠時間と糖尿病の関係を調査した研究では、睡眠時間が7~8時間の人の糖尿病有病率を基準にすると、睡眠時間が6時間以下の人は1.7倍、5時間以下では2.5倍に上昇します。

 

一方、睡眠時間が長くても糖尿病の人が多く、9時間以上眠っている人では1.8倍になっていました。

睡眠時間が5時間以下の者を不眠のある・なしで2つのグループに分けてみても、両者の糖尿病発症リスクに明らかな差はありませんでした。

このことは、不眠症という病気のために睡眠時間が短くなっている人だけでなく、仕事や勉強、趣味などのために睡眠時間を削っている人も、同様に糖尿病になりやすいことを示しています。

 

休日に「寝だめ」をすると糖尿病になりやすい

多くの人が平日に睡眠時間を削り、休日に睡眠不足を解消するために遅い時刻まで眠っています。

このように1週間の中で眠る時刻や起きる時刻が一定しないことが原因で起こる体と心の不調を、「ソーシャル・ジェットラグ(社会的な時差ぼけ)」と呼びます。

 

米ピッツバーグ大学の研究によると、仕事がある日と休みの日の就寝・起床時刻が違う人ほど、糖尿病になるリスクが高まります。

さらに、血液中の脂質が増加し、善玉コレステロール(HDLコレステロール)が減り、おなか周りが大きくなり、肥満度(BMI:Body Mass Index)が増すこともわかりました。

 

また、米ハーバード大学では、3週間にわたって昼夜に関係なく不規則に1日5~6時間の睡眠をとる実験が行われました。

これは、交代制勤務や海外旅行などで睡眠の時間帯がバラバラになったうえ、睡眠時間が削られた状態を再現しています。

 

このような睡眠・覚醒のスケージュールで生活すると、食後のインスリンの分泌量が約3分の1に減少しました。

これは、すい臓の体内時計の働きが乱されたため、新たな生活時間においてインスリンを十分に分泌できなくなったためではないかと考えられています。

 

「かくれ睡眠不足」でも糖尿病が悪化しやすい

糖尿病の患者さん161人で、睡眠不足とHbA1c(糖尿病の程度を表す指標)の関係を調べた研究では、睡眠時間が短くなるほどHbA1cが高くなる、つまり糖尿病が悪化していることが分かりました。

短時間睡眠は糖尿病になりやすいだけでなく、糖尿病の進行も早めているということです。

 

また、別の海外の研究では、睡眠の質が糖尿病の重症度と関係していることがわかりました。

睡眠の質が低下している糖尿病患者さんでは、睡眠が正常な患者さんに比べて、朝食前の血糖値が23%、空腹時インスリン値は48%、インスリン抵抗性(インスリンの作用が弱まること)も82%高くなっていました。

つまり、眠りが浅いとか熟睡できないと感じている糖尿病患者さんは、睡眠の問題のために糖尿病がうまくコントロールできない可能性が高いということです。

 

平成28年に国立精神・神経医療研究センターから、「潜在的睡眠不足(かくれ睡眠不足)」の人が多くいると発表されました。

隠れ睡眠不足とは、自分では睡眠不足を感じていないけれど、実は睡眠不足におちいっている状態です。

平日と休日の睡眠時間の差が2時間を超える人は、かくれ睡眠不足の可能性があります。

かくれ睡眠不足の人が十分な睡眠をとると、基礎インスリン分泌能が上がり、空腹時の血糖値が下がりました。

つまり、かくれ睡眠不足を続けていると、糖尿病になるリスクがあるということです。

 

睡眠不足が糖尿病を引き起こすメカニズム

平均的な睡眠時間の若くて健康な男性11名を6日間、睡眠時間を4時間に制限した実験が行われました。

それによると、睡眠時間を短縮してもすい臓から分泌されるインスリンの量は変化しませんでしたが、食後の血糖値が上昇しました。

 

これは、体中の細胞でインスリンをうまく活用できなくなったためです。

血液中のブドウ糖を代謝する能力を「耐糖能」といいますが、4時間睡眠をわずか4日間続けただけで、20歳代の若者の耐糖能が70歳代並に低下してしまいます。

 

これまでの研究から、

睡眠不足や不眠→日中の活動性が落ち、

交感神経が優位になる→血糖値を上げる「カテコラミン」や「コルチゾール」などのホルモンの分泌が増える

→細胞でのインスリンの作用が弱まる(インスリン抵抗性)→血糖値が上がる→血糖を下げようとしてすい臓が過剰にがんばる

→すい臓が疲れ果ててインスリンを出せなくなる→ますます血糖値が上がる→糖尿病になる、というメカニズムが考えられています。

 

睡眠時間が短くなると、食欲を抑える働きのある「レプチン(満腹ホルモン)」が減り、食欲を促す「グレリン(空腹ホルモン)」が増えて、暴飲暴食が目立つようになります。

睡眠時間が8時間の人と比べて5時間の人は、レプチンが16%少なく、グレリンが15%も増えています。

睡眠不足の時に、こってりしたラーメンやケーキなど高脂肪・高カロリー食を食べたくなるのはこのためです

 

なぜ糖尿病患者さんはよく眠れないのか?

血糖値が高いとノドが渇きやすいので、水分を多くとります。夕方以降に水分を多くとると夜間の尿の量が増え、眠っている間にトイレへ行きたくなり目が覚めてしまいます

また、早朝にノドの渇きが強くなると、水分をとりたくなって予定の起床時刻より早く目が覚めることもあります。

 

糖尿病では、大きな問題となる合併症が3つあります。「網膜症」と「腎症」、「神経障害」です。

網膜症は失明につながり、腎症が進むと人工透析が必要になります。神経障害は糖尿病合併症の中では最も頻度が多く、糖尿病患者さんの約3割が悩まされています。

 

神経障害の主な症状は、手足の痛みやしびれ、冷感です。体の痛みは不眠の原因となりやすく、健康な人でも冷え性があるとよく眠れなくなります。

また、糖尿病患者さんでは「アロディニア」という、シーツにこすれただけで走る電撃的な痛みで目を覚ますこともあります。

 

糖尿病の治療を行っている患者さんでは、薬が効きすぎて低血糖になることがあります。低血糖の発作を起こすと、意識を失ったりけいれんを起こしたりします。

症状が重いと命に危険がおよぶことがあります。そのため、糖尿病の患者さんは低血糖にならないように、なってもすぐに対処するようにしています。

 

ところが、眠っている間に低血糖になると対処が遅れます。糖尿病患者さんの中には、睡眠中の低血糖を心配し過ぎて眠る前に夜食をとる人がいます。

適量なら良いのですが夜食を食べ過ぎると、寝つきが悪くなったり深い睡眠がとれなくなったりします

 

不眠や睡眠不足が続くと、糖尿病が悪化します。糖尿病が悪化すると、糖尿病の症状や合併症による不眠や睡眠不足が悪化します。

糖尿病患者さんでは、このような悪循環が糖尿病や睡眠を悪くしているのです。

 

不眠の治療をすれば糖尿病が改善する

明るいニュースもあります。不眠症の治療をきちんと行えば糖尿病も良くなる、というデータが久留米大学の研究で分かりました。

不眠症(特に入眠困難)を合併している糖尿病の患者さんで、超短時間作用型睡眠薬を半年間飲んだグループ(睡眠薬群)と不眠症の治療を受けなかったグループ(対照群)を比べると、対照群ではHbA1cが0.12%悪化したのに対して、睡眠薬群では0.47%改善していて、両者に明らかな差がありました。

大阪市立大学でも、糖尿病患者さんに睡眠薬を投与して睡眠を改善すると、血糖が下がるだけでなく早朝の血圧が下がることも確かめられています。まさに、一石二鳥以上の効果と言えますね。

 

先に述べた米ハーバード大学での不規則短時間睡眠の実験では、実験終了後に9日間の通常の睡眠をとると、食後のインスリン量が元に戻ることが確認されています。

つまり、今は不規則な生活をしている人でも、生活習慣を見直して規則正しく十分な睡眠をとれば、糖尿病になりにくく、もし糖尿病になっても悪化しにくくなる可能性があるということです。

 

今のところ糖尿病の予防や治療は、食事と運動、薬が主な柱です。しかし、これからはもっと睡眠に注目して、快眠することで糖尿病を予防し治療していくことが大切になると思われます。

photo:Getty Images

坪田 聡

執筆

医師・医学博士

坪田 聡

医師として睡眠障害の予防・治療に携わる一方で、睡眠改善に特化したビジネス・コーチとしても活躍中。「快適で健康な生活を送ろう」というコンセプトのもと、医学と行動計画の両面から睡眠の質を向上させるための指導や普及に尽力。総合情報サイトAll about 睡眠ガイド。 「睡眠専門医が教える! 一瞬で眠りにつく方法」(TJMOOK 宝島社)、「パワーナップ仮眠法」(フォレスト出版)他、監修・著書多数。

医療法人社団 明寿会 雨晴クリニック 副院長

Site: http://suiminguide.hatenablog.com/


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