睡眠負債 子どもへの影響は大人よりも深刻!:前篇

睡眠負債 子どもへの影響は大人よりも深刻!:前篇

「睡眠負債」=積み重なった睡眠不足が、さまざまな疾患のリスクを押し上げるということは、テレビ番組や雑誌等で取り上げられたことをきっかけに、広く知られるようになりました。  

子供にとって睡眠負債は、脳をはじめとする神経や身体が成長する途上にあるだけに、さらに深刻な悪影響を与える恐れがあります。  

睡眠専門医の坪田聡先生に、子供の睡眠負債について、その現状と家庭で取り組める対策を教えていただきました。

 

睡眠負債とは

睡眠と覚醒のリズムは、「体内時計」と「睡眠物質」の2つによってコントロールされています。夜になったら眠くなり、朝になったら目が覚める、というのが体内時計の働きです。

 

一方、長い時間起きていたら睡眠物質が脳にたくさんたまって眠くなり、眠っている間に睡眠物質が分解されて量が減ると目が覚めます。  

この睡眠・覚醒のメカニズムから考えると、いくらたくさん眠っても「寝だめ」はできません。

私たちは起きている間にたまった睡眠不足を、眠ることで返しているだけなのです。

 

寝だめは「睡眠の貯金」、睡眠不足は「睡眠の借金」とも言えます。そのため睡眠医学では、睡眠不足のことを「睡眠負債」と呼んでいます。  

一般的には、毎日の睡眠が足りない量を「睡眠不足」、睡眠不足がたまっている状態を「睡眠負債」と考えるとイメージしやすいでしょう。

 

世界でも短い日本の子どもの睡眠時間

日本の子どもは世界的にみて、睡眠時間が短く夜更かしです。  

2010年に行われた世界17の国と地域の子ども(3歳以下)を対象にした調査で、日本は世界で最も睡眠時間が短いことがわかりました。

 

最も睡眠時間が長いオーストラリアと比べると、2時間ほど短くなっています。また、2000年の日本小児保健協会の調査によると、3歳児の半分以上が午後10時を過ぎても起きています。

同じころのオーストラリアでの調査では、96%の子どもが午後10時には眠っていますから、いかに日本の子どもが夜更かしなのかが分かります。  

 

子どもの睡眠が危機的状況にあるとはいえ、この悪い傾向にも改善のきざしが見えてきました。

ベネッセ教育研究開発センターが1歳半~6歳児の保護者に行った調査によると、午後10時以降に眠る子どもの割合は、2000年の39%が2005年には28.5%となり、夜更かしの子どもが5年間で大きく減りました。  

 

また、幼児の平日の起床時刻も、最近は早まる傾向にあります。午前7時以前に起きる子どもの割合は、1995年の33%が2005年には43%と10ポイントも増えています。

これらの好ましい傾向は、早寝早起きの重要性が幼児をもつ保護者に理解されてきたためと考えられます。

 

よく眠る子どもは学業成績が良い

夜遅くにコンビニエンスストアやファミリーレストランで、小さな子どもを見かけることがあります。

家の中でも、テレビやゲーム、パソコン、スマートフォンなど、子どもが眠らずに熱中してしまうものがあります。  

 

睡眠習慣と子どもの学力の関係を調べると、成績が上位の子どもほど、早い時刻に眠っていることが分かります。

小学3~6年生の主要4科目のテストで、平均95点以上をとる成績上位者の41%は午後9時より前に寝ついていて、12時以降に就寝する子どもはいません。

逆に70点未満の成績下位者では、9時前に眠る子どもはおらず、20%が12時以降に寝ついていました。  

 

算数では、睡眠時間と成績の関係も明らかです。成績上位者では9時間以上眠っている子どもが多いのに対して、成績下位者の多くは7時間未満の睡眠しかとっていないことが分かっています。

また、国語や算数の応用問題が得意な子どもは、夜更かししないことも事実です。  

 

早く寝ついてグッスリ眠ると、朝は自分でスッキリ目覚めます。

胃腸の調子も良いので朝食をしっかりとって、排便してから登校します。日中も体調がよく、勉強に集中ができて思考力もアップします。体も頭も活動的に過ごすので、夜になると早めに眠くなります。  

 

逆に睡眠不足だと、朝は自分で起きることができず、自主性が育ちません。朝食を食べられないので、日中の集中力や思考力が鈍り、学業成績が上がりません。

体温も十分上がらず活動量が少ないため、糖質代謝のパターンが変わってエネルギーをためやすい体になり、太ってしまいます。

家の中での遊びを好むようになり、テレビやゲーム、インターネットを夜までしていると、光の影響で眠気が減り、夜更かしする悪循環に落ち込みます。

 

子どもに必要な睡眠時間の目安

「うちの子どもは毎日、8時間眠っているから大丈夫」というのは間違いです。昔から「寝る子は育つ」と言われているように、発達中の子どもには、大人より長い時間の睡眠が必要です。

アメリカ睡眠財団の報告によると、年齢ごとに必要な睡眠時間は次の通りです。

  • 幼児期(1~3歳):12~14時間
  • 学童前期(3~5歳):11~13時間
  • 学童期(6~12歳):10~11時間
  • 中学高校生(11~17歳):8.5~9.25時間

 

日本でも、子どもの健全な成長のために望ましい睡眠時間は、下記のように言われています。

  • 小学校低学年:10~12時間
  • 小学校中学年~中学生:9~11時間
  • 高校生:8~10時間

 

「こんなに長く眠らないといけないの?」と思うかもしれませんが、睡眠は心身の発達に不可欠なものですから、子どもの間はしっかり眠ることが大切なのです。  

 

睡眠で大切な要素は、時間だけではありません。睡眠をとる時間帯や生活のリズムも大切です。  

睡眠時間帯では、午後7時から午前7時までの間に、夜の睡眠を取りましょう。年齢が上がるにしたがって寝付く時刻は遅くなりますが、高校生でも午前0時前に眠らなければいけません。

 

また、起床時刻が遅くなると体内時計のリセットがうまくいかなくなるため、生活リズムが乱れがちになります。  

生活リズムでは、平日の就寝時刻と起床時刻をなるべく同じくらいにしましょう。

多少は前後しても、30分以内に収まることが大切です。

 

休前日や休日は少しずれても仕方ありませんが、なるべく就寝時刻は一定にして、起床時刻は平日の睡眠不足を補うためでも+2時間までが許容範囲です。  

後編では子供の睡眠負債の判定に使える生活リズムのチェックリストと、子供の睡眠負債を減らす生活リズムの改善ポイントをご紹介します。

⇒後篇はこちら

photo:Getty Images

坪田 聡

執筆

医師・医学博士

坪田 聡

医師として睡眠障害の予防・治療に携わる一方で、睡眠改善に特化したビジネス・コーチとしても活躍中。「快適で健康な生活を送ろう」というコンセプトのもと、医学と行動計画の両面から睡眠の質を向上させるための指導や普及に尽力。総合情報サイトAll about 睡眠ガイド。 「睡眠専門医が教える! 一瞬で眠りにつく方法」(TJMOOK 宝島社)、「パワーナップ仮眠法」(フォレスト出版)他、監修・著書多数。

医療法人社団 明寿会 雨晴クリニック 副院長

Site: http://suiminguide.hatenablog.com/


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