「寝つきが悪い」とは、なかなか眠れない状態のことを指します。「入眠困難」ともいわれ、睡眠障害の一種の「不眠症」の症状の1つにも当てはまります。人は、なぜ寝つきが悪くなってしまうのでしょうか? 寝つきが悪くなる原因や、スムーズに寝つくための対策をご紹介します。
寝つきが悪い原因とは?

寝つきが悪い原因は、おもに以下の3つが挙げられます。
自律神経の乱れ
仕事などでストレスを受け続けていると、交感神経と副交感神経からなる自律神経が乱れやすくなります。特に、覚醒をつかさどる交感神経が活性化しすぎると、身体をリラックスモードにする副交感神経への切り替えがスムーズにいかなくなります。
心地良い眠りは副交感神経が優位な状態のときに訪れるため、交感神経が活発な状態が続くと、スムーズに眠りに入れなくなってしまいます。
体内時計が狂っている
体内にセットされている体内時計=約24時間を周期とした「概日リズム(サーカディアン・リズム)」が狂ってしまい、睡眠周期が乱れると眠りに入りづらくなります。この周期が乱れると、入眠時間が狂い、眠りに入れなくなってしまいます。
体内時計のリズムには、朝起きて太陽の光を浴びることによって生成される、「セロトニン」という神経伝達物質が大きく関わっています。「セロトニン」は、日が暮れると「メラトニン」という睡眠を誘発するホルモンになり、眠気がやってきます。そのため「セロトニン」が分泌される時間が日によって違うと、眠くなる時間帯が変わり、体内時計のリズムが乱れてしまうのです。
病気
脚に違和感や不快感があり、じっとしていられなくなってしまう「むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)」や、「うつ病」などの病気が原因の場合があります。
むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)
脚に「熱い」「ちりちりする」などの不快感が生じる病気です。身体を安静にしている時に症状が出やすく、夜ベッドに入って眠ろうとするころにピークを迎えるという特徴があります。原因は、脳の神経伝達物質「ドーパミン」の分泌異常だと考えられています。むずむず脚症候群を発症すると、あまりの不快感でじっとしていられず、眠りに入れなくなってしまいます。
むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)の症状とは?|快眠のための治療法
→脚がむずむずして眠れない…。眠りの妨げとなる病気の原因と対処法を紹介します。
うつ病
うつ病になると「セロトニン」の分泌が減るため、眠りに必要なホルモンの「メラトニン」が生成されにくくなります。そのため、なかなか寝つけない「入眠困難」の状態になるといわれています。
うつ病かも? と思ったら|季節も要因になるうつ病対策
→原因不明の気持ちの落ち込みや体調の変化について、原因と対策を解説します。
不眠チェックリスト
「最近、ちゃんと眠れていないかも…」と心配している人は、一度、不眠症ではないかをチェックしてみましょう。
以下は、「アテネ不眠尺度(AIS)」と呼ばれ、世界保健機関(WHO)が作成した世界共通の不眠症判定方法です。当てはまる項目(1カ月以内に週3回以上経験)にチェックしてください。
<チェック>
Q1 寝つきは?(床についてから眠るまでに要する時間)
- いつも寝つきはいい
- いつもより少し時間がかかった
- いつもよりかなり時間がかかった
- いつもより非常に時間がかかった、あるいはまったく眠れなかった
Q2 夜間、睡眠途中で目が覚める
- 問題になるほどのことはなかった
- 少し困ることがある
- かなり困っている
- 深刻な状態、あるいはまったく眠れなかった
Q3 希望する起床時間より早く目覚め、それ以上眠れない
- そのようなことはなかった
- 少し早かった
- かなり早かった
- 非常に早かった、あるいはまったく眠れなかった
Q4 総睡眠時間は?
- 十分だ
- 少し足りない
- かなり足りない
- まったく足りない、あるいはまったく眠れなかった
Q5 全体的な睡眠の質は?(睡眠時間の長さにかかわらない)
- 満足している
- 少し不満である
- かなり不満である
- 非常に不満である、あるいはまったく眠れなかった
Q6 日中の気分は?
- いつも通り
- 少し滅入った
- かなり滅入った
- 非常に滅入った
Q7 日中の活動について(身体的および精神的)
- いつも通り
- 少し低下した
- 非常に低下した
- かなり低下した
Q8 日中の眠気は?
- まったくない
- 少しある
- かなりある
- 激しい
<判定方法>
①0点 ②1点 ③2点、④3点 で計算する
<判定>
- 0~3点:問題ありません
- 4~5点:やや睡眠障害に疑いがあります。できれば医師に相談しましょう。
- 6点以上:睡眠障害の疑いがあります。医師に相談することをおすすめします。
出典:「ぐっすり眠れる本」(青空出版)
寝つきの悪さが身体に及ぼす影響

寝つきが悪くなると、睡眠時間が不足したり、眠りの質が低下したりすることで、身体にさまざまな不調が現れます。
- 倦怠(けんたい)感
- 意欲低下
- 集中力低下
- 食欲低下
また、「入眠困難」の状態が長期化すると、心身が適切な休息をとることができず、生活習慣病などのリスクが上がる危険性もあります。「ただ寝つきが悪いだけだ」と放っておかず、適切に対処することが重要です。
寝つきをよくするために、就寝前やめるべきこと

ここでは、心身ともにリラックスして眠るために、就寝前にやめるべきことをご紹介します。
頭を使う本を読まない
眠る前は、脳を鎮静させ、リラックスした状態にしましょう。眠る前に小説やビジネス本、雑誌などを読むと、覚醒系の神経伝達物質であるドーパミンが分泌され、脳が活性化し、眠れなくなります。
眠る前に本を読む場合は、あまり刺激的な内容の本ではなく、一度読んだことがある本やゆっくり眺められる写真集など、心が静まるものにしましょう。また、難解な学術書などのまったく興味のない内容の本も有効です。エンドルフィンという神経物質が分泌され、脳の興奮を静めようとすることで、自然と眠くなります。
眠る直前の入浴、長風呂は避ける
入浴は就寝したい時刻の1~2時間前までにすませておきましょう。入浴直後はあたたまった血液が全身をめぐるため、寝つきにくくなります。また、長時間の入浴も避けましょう。長時間入浴をすると、交感神経が活発になりすぎ、身体の機能が覚醒してしまいます。眠った後に目が覚めてしまう、「中途覚醒」も起きやすくなるため、避けましょう。
身体を冷やさない
冷えが原因で寝つきが悪くなることがあります。夏場にエアコンで冷えた部屋に長時間いたり、冬場の入浴が面倒で、シャワーでさっと済ませたりしてしまいがちな人は要注意。
スムーズな眠りに入るためには、身体の内部の温度(深部体温)をいったん上げることが必要です。そのあと、深部体温が下がるときに自然な眠気がやってくるためです。眠る前にはいったん身体を温めることを意識しましょう。
忙しくて入浴の時間がとれないときには、手浴や足浴、ホットドリンクでも身体を温める効果が期待できます。
喫煙やカフェインをとる
タバコやカフェインをとると、覚醒作用が働くことにより交感神経が優位になり、寝つきが悪くなってしまいます。タバコの覚醒作用は約1時間、カフェインの場合は約4時間続きます。どうしてもやめられないという人は、就寝時刻から逆算し、覚醒作用が睡眠に影響しない時間に摂るようにしましょう。
寝つきの悪さを改善するには?

寝つきの悪さを解消し、眠りたい時刻に眠れるようにするためには、日光を浴びたり適度に運動したりするなど、日中の過ごし方を変え、生活リズムを整えることも大切です。
以下に、眠りたい時刻に眠れるようにするための方法をまとめました。
起床時間を毎日同じにする
前述のとおり、寝つきの悪さは体内時計が狂ってしまい、睡眠周期が乱れることによって生じます。朝はできる限り同じ時間に起き、規則正しい睡眠サイクルをつくるように心がけましょう。
「休みだから」「昨日の夜、遅くまで起きていたから」と、お昼過ぎまで眠ってしまうのはNG。睡眠不足が続きいつもより長く眠りたいときは、体内時計のリズムを乱れにくくするためにも平日との起床時間のズレを2時間程度にとどめましょう。または、夜の睡眠に影響が出ないようにするために15時までに15分~20分の仮眠をとって睡眠時間を補いましょう。
起床後4時間以内に光を浴びる
人間の体内時計は、24時間よりも少し長い周期で動いているため、毎日リズムが少しずつずれてしまいます。このリズムは、朝、起床後に太陽の光を浴びることによってリセットされ、24時間周期に調整されます。
朝起きたときに「まだ眠い」と感じる場合は、眠気を誘う睡眠ホルモン「メラトニン」が残っているからです。朝日を浴びることで、脳内の「松果体(しょうかたい)」という部分が反応し、メラトニンの分泌が減り、目が覚めます。
また、午前中に太陽の光をしっかり浴びておくと、夜、松果体からメラトニンが分泌され、眠気が増してきます。この機能が正常に作用することで、体内時計が整い、寝つきの悪さを改善できます。
起床6時間後に仮眠をとる
午後に眠気を感じることが多いのは、人間に備わっている睡眠と覚醒のリズムが関係しています。
知覚や随意運動、思考などをつかさどる大脳は多くのエネルギーを消費するため、起床後6時間後に自動的に休むシステムが働きます。このときに眠気を感じたら「休息をとってほしい」という身体からのサイン。仮眠は大脳の大切なメンテナンス時間なので、眠気を無視して活動し続けると、仕事中に予期せぬミスなどが増えます。
眠気を感じたら、5分ほど目を閉じて仮眠しましょう。脳を少し休ませてあげることで、その後の仕事の効率が上がります。
運動する
身体をたくさん動かすと、脳の活動が活発になり、睡眠物質が生成されます。日中によく運動した人と安静にしていた人の睡眠中の脳を比べると、運動した人は深く眠り、安静にしていた人は眠りが浅くなります。
湯船につかりゆっくりお風呂に入る
人の身体には「深部体温」という内臓の体温があります。自然な入眠タイミングは、深部体温が下がった時に訪れます。ぬるめのお湯をはった湯船につかり、ゆっくりお風呂に入った後、体温が下がったタイミングで自然な眠気が訪れます。
ストレスをためない
ストレスを受けると、心拍数が増える、呼吸が速くなる、血圧が上がるなどの反応が生じ、心身に大きな負荷がかかります。また、これらに合わせて脳が覚醒状態になるので、寝つきが悪くなります。
また、ストレスを受け続けると、ストレスの処理レベルが低下してストレスを感じやすくなります。この状態だと、眠った後でも疲労感が抜けきらず、不眠のサイクルにつながりやすくなってしまいます。
ほかにも、下記の記事でスムーズに眠れる方法を紹介しているので、参考にしてみてください。
寝室環境を改善する
寝つきを良くするためには、その日に感じたストレスを解消し、休息を司る「副交感神経」を優位にしてリラックスすることが大切です。そのために、寝室の環境を整えましょう。以下にスムーズに眠れるための寝室づくりのポイントをまとめました。
「寝室=眠るための場所」にする
寝床に入ってスムーズに眠るためには、脳に「寝室は眠るための場所である」と覚えさせることが大切。そのため「寝る」以外のことはできる限りしないようにしましょう。寝床で作業をすると、脳はそこを「作業の場」と認識するようになり、「布団に入っても眠れない」原因ともなってしまいます。逆に、眠くなったときに寝室に向かってすぐに眠るようにすると、脳が「寝室=眠る場所」と記憶するため、よりスムーズに眠りにつくことができるようになります。
寝室の照明を調整する
室内の照明が明るすぎると、睡眠を誘うホルモン「メラトニン」の分泌が抑制され、スムーズに眠りにつけなくなってしまいます。就寝1~2時間ぐらい前に部屋をホテルの部屋ぐらいの明るさに調整したり、間接照明などを利用して一段階明るさを落としたりするなど、工夫をしましょう。睡眠時は室内灯ぐらいの明るさにするのが理想的です。
寝室を静かに保つ
寝室の周辺がうるさいと、脳が覚醒してしまい、寝つけなくなってしまいます。エアコンの室外機や音がする時計を近くに置かない、防音・遮音カーテンを使うなどの工夫をし、できる限り静かな状態を保つようにしましょう。どうしても音が気になる時は、あえて自分が好きな音楽やラジオを小さな音で流すと気分が落ち着くのでおすすめです。
日中に眠いときの対処法

寝つきが悪い日が続くと、睡眠不足になり、日中に眠くなってしまうこともあります。ここでは、日中の眠気に対処する方法を3つ紹介します。
日中に15~20分程度の仮眠を取る
日中の15~20分の昼寝は、「パワーナップ」とも呼ばれ、元気が出る昼寝としてアメリカなどの企業でも浸透しています。少し眠るだけで、気力が回復し、集中力も高まると言われています。また、仮眠後は水で洗顔をすると、気分がすっきりし、仕事のパフォーンスが上がります。
仮眠前にカフェインを摂取する
仮眠の前にカフェインを摂取しておくと、目を覚ますころにカフェインの効果が出てきて、頭がすっきりとします。その後も数時間、覚醒した状態が続くため、仕事や家事に集中できます。
耳を引っ張る
耳を上下・左右・斜め方向に引っ張りましょう。耳を引っ張ると血行がよくなり、活動モードに切り替わります。耳には100以上のツボがあり、特に耳たぶのツボは、頭の疲れをとるのに効果的なほか、肩こりや頭痛の緩和も期待できると言われています。
ブルーライトを浴びる
就寝前にブルーライトを浴びると、脳が覚醒して安眠の妨げになりますが、眠気をとりたいときは逆に視覚に刺激を与えてみましょう。五感の中でも視覚からの刺激は、特に覚醒に有効で、パソコンやスマートフォンの青白く明るい光を浴びることで、眠気を抑えられます。
不眠症かも?受診するときの病院選びのポイント

寝つきが悪い状態がしばらく続き「もしかして、不眠症かもしれない」と不安になった時は、我慢したり悩み続けたりしないで病院へ行きましょう。睡眠外来や不眠症外来などの睡眠専門クリニックが近所にない場合は、内科などのかかりつけ医に相談しましょう。
<参照>
『お酒や薬に頼らない「必ず眠れる」技術』 森下克也(角川SSC新書)
『ぐっすり眠れる本』 監修 村田朗(青空出版)
『安眠健康術』 堀忠夫(海竜社)
『8時間睡眠のウソ。』川端裕人 三島和夫(日経BP社)
『ぐっすり眠れてすっきり起きる50のコツ』菅原洋平(宝島社)
photo:Getty Images

医師として睡眠障害の予防・治療に携わる一方で、睡眠改善に特化したビジネス・コーチとしても活躍中。「快適で健康な生活を送ろう」というコンセプトのもと、医学と行動計画の両面から睡眠の質を向上させるための指導や普及に尽力。総合情報サイトAll about 睡眠ガイド。 「睡眠専門医が教える! 一瞬で眠りにつく方法」(TJMOOK 宝島社)、「パワーナップ仮眠法」(フォレスト出版)他、監修・著書多数。
医療法人社団 明寿会 雨晴クリニック 副院長