女性の身体はとてもデリケート。生活リズムの乱れやストレスによってホルモンバランスが崩れ、生理不順になってしまうことがあります。一方で生理不順は重大な病気のサインの可能性も。
今回は婦人科専門医の松本裕子先生に、生理不順の原因や改善法について伺いました。
生理不順の症状

生理不順は、大きく分けると「生理周期の異常」と「出血の異常」の2種類の症状があります。
生理周期の異常
正常な生理周期は、月経が始まってから次の月経が来るまでの期間が25~38日間で、出血が続く期間は3~7日ほどです。これに比べ周期が短すぎたり、長すぎたりすると「生理不順」とみなされます。
頻発(ひんぱつ)月経
月経の正常な周期(25~38日間のサイクル)に対し、周期が24日以下になること。
稀発(きはつ)月経
月経が始まってから次の月経が来るまでに39日以上かかること。
出血の異常
生理が起こらないはずの時期に出血して、数日間続くことがあります。具体的な出血異常の症状を以下にまとめました。
月経過多
日中に夜用ナプキンを何度も交換しなければならないほど、経血の量が多くなってしまうこと。
月経過少
ナプキンに茶色い線がつくくらい経血の量が極端に少ないこと。
不正出血
生理の期間以外に出血があること。例えば、生理が28日周期の人の場合、14日目など本来出血がないはずの時期に出血してしまうことです。また、月経が8日以上続く場合を「過長月経」、2日以内で終わってしまう場合を「過短月経」といいますが、月経ではなく不正出血の場合があります。
明らかに生理とは違う時期に出血がある場合は、子宮頸がん、子宮体がん、頸管炎といった病気の可能性もあります。
生理不順は、身体がまだ未成熟で生理のリズムが安定しない思春期に経験する人も少なくないといわれています。そのため思春期の生理不順は、過度な心配をする必要はありませんが、症状が長く続く場合は病院で診察を受けることをおすすめします。
しかし、20代以上で身体が成熟した女性にこうした症状がみられる場合には、注意が必要です。また、妊娠していないのに40日以上生理が来なくなった場合や、1ヵ月に2度以上生理がある場合は、卵巣からの排卵が規則的に行われていない排卵障害の疑いがあります。
生理不順の原因

では、生理不順はなぜ起こるのでしょうか? 生理不順の原因には「ホルモンバランスの乱れ」「卵巣、子宮の病気」「妊娠」が考えられます。
ホルモンバランスの乱れ
女性ホルモンには、「エストロゲン」と「プロゲステロン」の2種類があります。エストロゲンは、丸みを帯びた女性らしい身体を作るためのホルモンです。受精卵が着床する子宮内膜を厚くする働きや、自律神経のバランスを整える働きなどをします。
プロゲステロンは、エストロゲンの働きによって厚くなった子宮内膜を受精卵が着床しやすく整えたり、妊娠を持続させたりするほか、体内の水分を保つ働きをします。
この2つの女性ホルモンが協調して働くことで規則的な月経周期が成立します。これらのうち一方が過剰に分泌されたり、逆に少なすぎたりすると、ホルモンバランスが乱れて生理不順につながります。
以下にホルモンバランスが乱れる原因をまとめました。
栄養バランスが偏った食事
炭水化物を多く含む食事ばかり摂ると、正常に排卵されなくなり、生理不順の原因となります。炭水化物によって血液中の糖が増えると、血糖値を下げるためにインスリンの分泌が活性化します。
インスリンが過剰に分泌されることにより、「高インスリン血症」になり、排卵障害を起こすことがあるからです。
睡眠不足
就寝前の1~2時間前から睡眠中には、脳の松果体(しょうかたい)から睡眠ホルモン「メラトニン」が分泌されます。メラトニンには体内時計を調節する働きがあるため、睡眠不足によってメラトニンの分泌が下がると、体内時計が乱れ、生理不順の原因になります。
ストレス
環境の大きな変化や、仕事のプレッシャーなどのストレスは、ホルモンバランスの乱れを引き起こす要因となります。特に新年度などで生活が一変する時期は、ストレスがたまりやすいので、生理不順が起こりやすくなります。
下記の記事を参考に、自分に合ったストレス解消法を見つけましょう。
3分ストレスチェック|タイプ別10のストレス解消法
痩せすぎや肥満
BMI(※)が17以下になると、身体が生命活動の維持だけしかできなくなり、生理が来なくなることがあります。逆に、BMIが30以上になると、卵巣から分泌される女性ホルモンに加え、脂肪組織からも女性ホルモンが分泌されるため、ホルモンバランスが乱れて生理不順につながります。BMIの計算方法は下記を参考にしてみてください。
※BMI (Body Mass Index)は、体格指数を表し、18.5以上25未満が普通体重とされている。
<BMIの計算方法>
[体重(kg)]÷[身長(m)の2乗]
(例)身長160cm 50kgの場合
50kg÷(1.60m×1.60m)=19.53
<BMI判定>
18.5未満……低体重
18.5 ≤ BMI < 25.0……普通体重
25.0 ≤ BMI < 30.0……肥満(1度)
30.0 ≤ BMI < 35.0……肥満(2度)
35.0 ≤ BMI < 40.0……肥満(3度)
40.0 ≤ BMI……肥満(4度)
急に激しく運動する
これまでほとんど身体を動かした経験がない人が急に激しく身体を動かすと、身体に過度な負担がかかるため、女性ホルモンの減少につながります。すると、排卵しづらくなる可能性があります。運動を始めるときは、無理をせず徐々に負荷をかけていくようにしましょう。
卵巣、子宮の病気
年々出血量が増すタイプの月経過多では、子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜症といった病気が疑われます。また、生理以外の期間に出血が続く、不正出血がある場合は、子宮頸がん、子宮体がん、頸管炎といった病気の可能性があります。
出血量の変化を感じたときや、不正出血があった場合はすみやかに婦人科の医療機関で医師の診察を受けましょう。
妊娠
生理の予定日を過ぎても生理が来ない状況が続く場合は、妊娠の可能性があります。また、不正出血は、受精卵が子宮内の正常な場所以外に着床してしまう「異所性妊娠」のときも起こります。心当たりがある場合は、婦人科の医療機関で検査を受けましょう。
病気の可能性がある生理不順の症状

生理不順のときに次のような症状をともなう場合は、病気の可能性が考えられます。
疲れやすい・むくみやすい・寒さを感じる
甲状腺機能異常のおそれがあります。甲状腺機能異常とは、新陳代謝を調整する働きのある甲状腺ホルモンを分泌する能力が低下してしまうこと。生理不順のほか、妊娠しにくくなる、流産や早産の可能性が高くなる、などの影響があります。
適切な治療をする事により症状は改善します。自覚症状が現れたらすぐに受診するようにしましょう。
ニキビがひどい、毛深い、声が低くなった
女性ホルモンよりも男性ホルモンの方が多く分泌されてしまう「男性ホルモン分泌過多」という状態になっている可能性があります。ストレスや生活習慣の乱れなどによって、ホルモンバランスが崩れることで起こりやすくなります。
出産経験がないのに母乳が出る
乳腺の発育を促すホルモン「プロラクチン」の分泌が過剰になる、「高プロラクチン血症」の可能性があります。プロラクチンの血中濃度が高くなると、不妊や流産の原因になることがあります。
生理不順だけでなく、上記の症状も併せて発症している場合は、早めに専門医の診察を受けましょう。
生理不順からくる不正出血について

生理不順の症状のひとつである不正出血は、生理不順の判断基準としてだけでなく、病気のサインの可能性もあります。不正出血の症状や考えられるトラブルについてご紹介します。
不正出血と生理の見分けかた
不正出血かどうか知るためには、毎日基礎体温を記録するという方法が有効です。基礎体温を確認して、生理とは関係ない時期に出血していたら、不正出血だと考えられます。また、出血の色や量についても記録しておくと、病院での診察時に参考になります。
不正出血から考えられる病気、トラブル
不正出血は生理不順ではなく、他の病気によるものである可能性もあります。不正出血が起こる可能性のある病気やトラブルは、下記の通りです。
- 炎症によるもの:病原菌の感染・萎縮性腟炎・子宮内膜炎など
- ホルモン異常によるもの:卵巣機能不全・月経異常など
- 良性の腫瘍:子宮頸部または内膜のポリープ・子宮筋腫など
- 子宮腟部びらん(子宮膣部がただれているように見える状態):初期の子宮頸がんなど
- 悪性の腫瘍:子宮体がん・卵巣腫瘍・子宮肉腫・腟がんなど
- 妊娠に関連するもの:流産・異所性妊娠など
不正出血が続く場合など、少しでも不安に思ったら産婦人科へ行くようにしましょう。一度の検査で異常が見つからない場合でも、不正出血が繰り返されるときは病気の初期段階である可能性があります。
定期的に検査を受けたり、以前の状態との違いを比較したりすることによって病気の診断ができることもあるので、できるだけ同じ病院を受診することをおすすめします。
生理不順を改善するための生活習慣

生理不順を改善するための生活習慣を見直すことも大切です。健やかに過ごすために、普段から以下の行動を意識してみましょう。
生活リズムを整える
日々の生活の中で生命を維持するために重要な心臓・肺、脳などには優先してエネルギーが使われます。エネルギーに余裕がなくなると、子宮や卵巣などの生殖機能には十分なエネルギーが回らず、機能低下につながります。
そのため、生理を正常に保つためには、身体を健康な状態に維持しておく必要があります。日々の食事で栄養を十分に補給し、適度な運動を習慣化する、十分な睡眠をとるなど、生活リズムを整えましょう。
排卵を促す睡眠習慣
睡眠ホルモン「メラトニン」が最も分泌される23時~1時前に入眠することで、自然と体内時計のリズムが整い、規則的な排卵が促されるため、この時間帯はしっかり眠れるように、早めに就寝の準備をしましょう。
生理の記録をつける
生理がいつ来ていつ終わったのかや、毎日の基礎体温(※)を記録しましょう。3カ月分くらいの記録があると、医療機関を受診したとき適切に医師に現状を伝えられるので、診察がスムーズに行われやすくなります。カレンダーやスマートフォンのアプリを活用して、生理の記録をつけてみてください。
※朝目覚めて、身体を動かす前の安静時の体温のこと。平熱よりも0.3度以上高い日が11~16日続いていれば、排卵していると考えられます。
<参照>
HUMAN+ 女と男のディクショナリー(日本産科婦人科学会)
http://www.jsog.or.jp/public/human_plus_dictionary/
国立成育医療研究センター
https://www.ncchd.go.jp/hospital/about/section/perinatal/bosei/bosei-hashi.html
東京女子医科大学 高血圧・内分泌内科
http://www.twmu.ac.jp/TWMU/Medicine/RinshoKouza/021/patient/hormone/hashimoto/hashimoto_p06.html
鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 神経病学講座 脳神経外科
http://www.kufm.kagoshima-u.ac.jp/~ns/page5_link12.html#faq01
photo:Getty Images
