「ストレスを感じると胃がキリキリする」「胃が痛いので何も食べられない」など、胃が痛くて悩んだことはありませんか? 「胃が痛い」症状の種類や原因、予防法をまとめました。
「胃が痛い」とは?

胃が痛くなるのは「消化」の働きに関係しています。まずは胃の基本的な働きについてみていきましょう。
胃の働きについて
胃は、消化の第一段階を行う器官です。胃では、食べ物に含まれる栄養分を吸収するための準備という、重要な働きを担っています。食べ物が胃に入るときは、まず入口の「噴門(ふんもん)」が開き、食べ物は胃の中心部分である「胃体部」に一時的に蓄えられます。すると胃液が分泌され、消化が始まります。
胃液には、主に「胃酸」「ペプシン」「粘液」の3つの成分が含まれています。この3つがバランスよく分泌された状態で胃が「ぜん動運動(※)」をすることで食べ物は細かく、小さくなります。
これが消化の第一段階です。消化しやすい状態になった食べ物は、胃の出口である「幽門(ゆうもん)」から出て次の消化器官へと進みます。
※ぜん動運動:くびれて動き、内容物を移動させる運動のこと。
胃が痛くなる原因は?
「胃が痛い」と感じる場所は、主に「みぞおち(おなかの上方中央にあるくぼみ)」周辺であるケースが多くあります。胃が痛い、という症状が出る原因は「胃酸が過剰に分泌されることによる炎症」や「胃けいれん」、「胃腸機能の低下」などが挙げられます。
胃が痛くなる症状の出かたや程度はそれぞれの原因で異なります。個人差があるので、以下を参考に自分の症状がどのタイプか確認してみましょう。
胃酸が過剰に分泌されることによる炎症
胃の内側には粘液による膜があり、通常、食物の消化や菌の殺菌を行う強力な酸性の胃酸が分泌されても溶けることはありません。しかし、胃酸が過剰に分泌されると、胃粘膜がダメージを受け炎症が起きてしまいます。
「シクシク」、または「キリキリ」と痛み、空腹時に起こることが多いといわれています。
胃けいれん
ぜん動運動を起こす筋肉「筋層」が、緊張して痛むことで、胃がけいれんを起こしているように感じる症状です。「キュー」と差し込むような痛みがあり、吐き気や食欲不振を伴うこともあります。
発作の時間は短いもので数分、長いと1~2時間続くこともあります。強いストレスを感じ、緊張し過ぎたときに起こるといわれています。
胃腸機能の低下
身体的な疾患がないにもかかわらず、胃の働きが低下し、膨満感、胸やけ、吐き気、食欲不振、胃が痛いと感じるなどの症状が出る、消化不良状態。心身のストレスによって自律神経のバランスが崩れると、胃が痛くなったり、もたれたりします。食後に痛みを感じることが多いのが特徴です。
それぞれの症状は、病気が原因で起こっている可能性があります。病気の可能性については後述しますが、不安に感じた方は、早めに医療機関を受診してください。
胃が痛くなる原因をつくる生活習慣

前述したような胃が痛くなる原因は、毎日の生活習慣にあるかもしれません。以下に心当たりがある人は、生活習慣を改善しましょう。
食生活の6つの改善ポイント
(1)アルコールを大量に、または頻繁に飲んでいる
ワイングラス1杯、日本酒1合程度であれば、胃の動きをほど良く活発にしてくれますが、大量の飲酒や空腹時の飲酒は胃粘膜を刺激し、胃の調子を乱す原因になります。
(2)空腹時にコーヒーをブラックで飲む
コーヒーは、胃酸が大量に分泌されるのと同じ状況を作り出します。空腹時のブラックコーヒーは胃に負担を与えるので避けましょう。
(3)揚げ物など油分が多い食事をしがち
脂肪分の多い食べ物は消化されにくく胃酸が過剰に分泌され、胃粘膜がダメージを受けます。
(4)早食いをする
きちんと噛んで食事をしないと、胃酸が大量に分泌され、胃の粘膜が刺激されてしまいます。
(5)朝食を抜く
胃の中に12時間以上食べ物が入らないと、胃酸の分泌が過剰になり、胃粘膜が傷つきます。
(6)満腹になるまで食べる
消化のために胃酸が大量分泌され、胸やけなどの症状が出ます。
日常生活の3つの改善ポイント
(1)喫煙、受動喫煙
タバコに含まれる「ニコチン」には、胃酸の分泌量を高めたり、胃粘膜の抵抗力を弱めたりする作用があります。
(2)ストレスや疲労を感じている
ストレスや疲労を感じたり、寝不足が続いたりすると、胃の働きをコントロールしている自律神経が乱れ、胃の働きが悪くなります。ストレスを我慢しがちな人は、そうでない人よりも胃が痛くなりやすい傾向があります。自分に合ったストレス解消法を見つけましょう。
(3)食後すぐに身体を動かす
胃のぜん動運動の邪魔になり、消化がスムーズに行われず、胃が痛くなる原因になります。
このように、日常生活には胃の働きに影響をおよぼす要因がたくさんあります。胃に負担をかけていないか、自分の生活を振り返ってみましょう。
胃が痛いときの対処法と予防法

胃が痛いときに簡単に実践できる対処法と、予防法をご紹介します。なかでも、睡眠改善で自律神経を整えることは重要です。
食生活でできる5つの胃痛ケア
胃が痛いときは、胃に負担をかけない食生活を心がけることが大事。「胃が痛い」と悩んでいる人は、今すぐ取り入れてみましょう。
(1)消化しやすい食べ物を食べる
食物繊維や脂肪分の多い食べ物は、消化に時間がかかり、胃への負荷が増すので、弱っているときは避けましょう。食材を細かく刻んだり、生ものは火を通し、繊維の多いものは細かく刻んだりして消化しやすい状態にしてください。消化しやすい食べ物は、白身魚、豆腐、おかゆ、鳥のささみ、バナナ、りんごなどです。
(2)刺激物を避ける
アルコール、コーヒー、紅茶、緑茶などを摂りすぎると、胃酸が普段よりも多く分泌されます。それが原因で胃が荒れてしまう可能性があります。ケーキやチョコレートなど糖分の多いもの、ニンニクやトウガラシなどの刺激物も同じく胃に負担をかけやすい食物です。摂りすぎないよう注意しましょう。
(3)1日3食、規則正しく食事を摂る
食欲がなかったり、時間がなかったりして食事を抜くと、胃の中が荒れる原因になります。朝昼晩1日3食、栄養バランスのとれた適切な量を摂ることを心がけましょう。仕事が忙しく、夕食を夜遅くに摂りがちな人も多いですが、深夜に食事を摂るのはNG。
就寝前にものを食べると、眠っている間も消化活動をしなければならなくなり、胃への負担が大きくなります。さらに、休むべき胃腸が休めないと睡眠の質にも影響します。
残業があって夕食を摂る時間が遅くなりそうな場合には、会社でおにぎりなど軽めのものを食べ、帰宅してから消化によいスープなどを摂るなど食事の回数を分け、夜のドカ食いを避けましょう。 胃腸にも睡眠の質にもやさしい夕食の摂り方を工夫しましょう。
(4)ゆっくりよく噛んで食べる
食べ物をよく噛まずに食べると、胃の負担になります。ゆっくりとよく噛んで食べると、唾液の分泌が促され、消化しやすい状態で胃に食べ物が届きます。
また、よく噛むと脳で満腹感を感じられるので、食べ過ぎ防止、肥満防止にもなります。腹八分目を意識して、食べる分量をコントロールしましょう。
(5)喫煙習慣をやめる
タバコを吸うと胃粘膜の血管が収縮し、血液循環が悪くなります。すると、胃粘膜の抵抗力が落ち、胃の中が荒れやすくなります。また、同時に胃酸の分泌が促進されるため、胃酸による胃粘膜への刺激が、さらなる胃痛を招く原因となります。胃が痛いと感じている方はできるだけ禁煙を心がけましょう。
睡眠で自律神経を整える胃痛ケア
胃液の成分は「自律神経」がバランスをとることによって、正常に分泌されています。ところがしっかり睡眠がとれないと、「交感神経」と「副交感神経」の2つの神経がバランスを崩し、胃液の異常分泌によって胃が傷みます。
自律神経のバランスを整えるために、睡眠の質をアップさせることを意識してみましょう。
(1)起床時刻と就寝時刻を一定にする
私たちの身体には、活動と休息で体内をメンテナンスする「体内時計」があります。朝は起床、昼は活動、夜は就寝という規則正しい習慣によって正常にリズムを刻んでいますが、不規則な生活を送っていると体内のリズムが崩れ、自律神経の乱れにつながります。
朝の起床時刻と夜の就寝時刻を一定にすることで、体内時計のリズムが整います。朝は太陽の光を30分以上浴び、夜は間接照明などを使って心地よいと感じるような薄暗い環境にしましょう。就寝時刻が日によってずれる時も、起床時刻は一定にしておくことが理想的です。
(2)心身がリラックスできる寝具で眠る
パジャマ、枕、布団などの寝具の素材が身体の負荷となり、睡眠の質を下げている可能性もあります。身体への負荷を軽減するには、やわらかいオーガニックコットンやさらさらしたシルクなどの生地でできた心地良く感じられるパジャマを選びましょう。
刺激を軽減するだけでなく、布団との摩擦が減るため、寝返りをうちやすくなります。部屋着やスウェットは眠るときには適しません。
パジャマの他、枕カバーやシーツなどのやさしい素材に触れ、気持ちいいと感じると、リラックスし、副交感神経の働きが高まるので、ぐっすり眠れます。
胃が痛いときに現れる吐き気・嘔吐

胃痛と吐き気が同時に起こるわけ
胃が痛い、などの内臓の異常が起こると、脳内の「嘔吐中枢」が刺激され、吐き気がおこります。
吐き気が同時に起こる病気
「急性胃炎」「慢性胃炎」「胃潰瘍」「十二指腸潰瘍」の4つの病気以外にも、吐き気や嘔吐を伴う病気があります。
機能性ディスペプシア
慢性的に胃の痛みや胃もたれなどの症状があるにもかかわらず、原因が明確にわからない病気です。「食後のもたれ感」「すぐに食べ物で胃が一杯になるように感じて、食べられなくなる感じ(早期膨満感)」「みぞおちの痛み」「みぞおちの焼ける感じ」の4つの症状があり、患者の生活の質を下げてしまいます。
近年、さまざまな検査をしても胃の中に異常がみられない場合、「機能性ディスペプシア」と呼ばれるようになりました。日本人の4人に1人は機能性ディスペプシアの可能性があると考えられています。
胃が痛いのは病気のサイン? 胃痛と病気の関係

胃が痛いという症状は、病気の症状のひとつとして出ていることもあります。一時的に出た症状を何となく放置してしまいがちですが、重大な病気の可能性もあります。ここでは、胃痛を伴う代表的な病例を紹介します。
胃が痛くなる病気
急性胃炎
ウイルス感染、食中毒、アレルギーなどで胃粘膜がただれ、突如みぞおちが「キリキリ」と痛みます。吐き気や下痢だけではなく、嘔吐や吐血、下血などの症状を伴うこともあります。多くの場合は、安静にしていれば2~3日で治まるといわれています。
慢性胃炎
胃の粘膜が弱まり、炎症が続いている状態です。急性胃炎と症状は似ていますが、慢性胃炎の場合は放置しておくと胃潰瘍に進行する恐れがあります。食べ過ぎ、飲み過ぎ、非ステロイド性消炎鎮痛剤の副作用、ストレス、ピロリ菌(※)の感染が原因としてあげられます。
※ピロリ菌:胃の粘膜に感染する細菌。ピロリ菌の出す毒素・アンモニアが胃の粘膜の細胞を破壊し、胃酸から胃の粘膜を守る力を弱めることが胃痛の原因となるといわれている。
胃潰瘍
胃酸やたんぱく質を分解する働きを持つ「ペプシン」が胃を傷つけることで起こる病気。ストレス、ピロリ菌の感染、解熱効果などがある非ステロイド性消炎鎮痛剤やステロイド薬などが原因で、胃酸が胃を傷つけ「ズキズキ」と重苦しい痛みが出るのが特徴です。
十二指腸潰瘍
原因は胃潰瘍と同様です。胃と小腸をつなぐ十二指腸の粘膜に潰瘍ができたり、出血したりします。症状が進行すると、十二指腸の壁に穴が開いた状態(穿孔)になります。
胃がん
胃粘膜細胞ががん細胞に変異することで生じる病気。粘膜内の細胞が秩序を持たず、増殖を繰り返すようになります。初期は自覚症状がなく、がんが進行するにしたがってみぞおちの痛み、吐き気、胸焼けなど、胃炎や胃潰瘍に似た症状が出ます。
がん細胞は大きくなるにつれ、胃の壁の中に入り、続いて胃の外側にある漿膜(しょうまく)に侵食し、進行が進むと近くの大腸や膵臓(すいぞう)にも広がる可能性があります。
胃が痛い症状は、重度な病気の症状として出る場合もあります。「ただの胃痛」と軽く考えず、少しでも不安を感じたら医師に相談しましょう。
<参照>
単行本『驚くほど眠りの質がよくなる 睡眠メソッド100』三橋美穂(かんき出版)
論文『胃・十二指腸潰瘍症に於ける空腹時胃酸分泌に関する研究』西山正巳
【脳神経疾患研究所|総合南東北病院】
【がん情報サービス|国立がん研究センター】
【胃と腸の事がよくわかる胃腸の健康|わかもと製薬】
【タケダ健康サイト|武田コンシューマーヘルスケア】
【くすりと健康の情報局|第一三共ヘルスケア】
【エスエス製薬】
【胃のサイエンス|エーザイ】
【なるほど病気ガイド|アステラス製薬】
photo:Getty Images

医師として睡眠障害の予防・治療に携わる一方で、睡眠改善に特化したビジネス・コーチとしても活躍中。「快適で健康な生活を送ろう」というコンセプトのもと、医学と行動計画の両面から睡眠の質を向上させるための指導や普及に尽力。総合情報サイトAll about 睡眠ガイド。 「睡眠専門医が教える! 一瞬で眠りにつく方法」(TJMOOK 宝島社)、「パワーナップ仮眠法」(フォレスト出版)他、監修・著書多数。
医療法人社団 明寿会 雨晴クリニック 副院長