好きな人とは別れられても、自分自身とは別れられない。生きづらさを感じる人に届けたい映画『生きてるだけで、愛。』感想文

枕元に置かれた、3つの目覚まし時計。いずれも10分刻みで設定したはずなのに、いつの間に止めたのだろう。起床したころには日が高く、約束の時間はとうに過ぎていた。

 

スマートフォンに、留守番電話が一件。
「お約束の時間が過ぎても来られなかったので、この話はなかったことに……」

 

コンビニのアルバイト面接。
姉に焚きつけられて、重すぎるほど重い腰を持ち上げてやっと面接のアポイントまで取れたのに、当日、やっぱり辿り着けなかった。また、起きられなかったのだ。

 

「あんた、終わってんよ」
電話越しの姉の声が、重くのしかかる。なんとか反論を試みるが、内心は、自分への怒りと理不尽な体への恨みでいっぱいだった。

 

 

映画『生きてるだけで、愛。』の序盤に描かれる、趣里演じる主人公・寧子(やすこ)のワンシーンが、上記です。

 

寧子は、うつ症状過眠症を患っています。それが今作のメインテーマでは決してないですが、エッセンスとしてはかなり重要。「菅田将暉がカッコいいから見よっと!」なんて軽い気持ちで見ようものなら、救いようのない重さに気持ちを沈められてしまう可能性もあります。

 

 

「共感した」だとか「泣けた」だとか、昨今流行りの簡単な言葉では済ませられない「生きづらさ」を目の当たりにするこの映画の魅力を、少しだけ話しさせてください。

 

 

正反対の二人が、同じ屋根の下に住む

 

誰だって、生きづらい。

 

この原稿を書いている今日だって、なんだか秋めいてきたからニットのタートルネックをおろしてみたら妙にチクチクして首が少しかぶれてしまったし、なんとなくお気に入りの革靴を履いてみたらやっぱり雨が降っている。急いで返した連絡は実は明後日が締め切りだったし、来週と思っていた打ち合わせが本当は今日。

 

ミスが重なったり、行き違いやすれ違いばかりだったり、ハッピーなことばかりではいられないのが人生です。むしろマイナスなことばかり目につく日々です。そういう意味では、本作の主人公である寧子と津奈木は、現実世界に生きる私たちとなんら変わりないのかもしれません。

 

 

菅田将暉演じる津奈木は、もともと文芸の世界に憧れがあり、出版社に入りました。しかし配属先は週刊誌の編集部で、ゴシップ記事の執筆に明け暮れることになる。想像もしていなかった仕事に就いて、働いているうちに野心もほぼ消えて、職場の人間関係に波風立てぬよう、たくさんの感情に蓋をして生きてきました。

 

無関心といえばそれまで。いつも疲れた顔をして帰宅する津奈木は、2DKのアパートで同居している寧子の感情の起伏にも動じず、その態度がまた寧子を苛立たせます。

 

一方、寧子は寧子で、うつで過眠症ということもあり、一日の大半を布団に包まって過ごしています。自分は引きこもりなのに、なんとか働いている津奈木に向かって「部屋掃除もできないのか」と悪態をつく。酒を飲めば自販機に突っ込んで流血するし、そのまま走り出したりもする、側から見れば手のつけられない存在です。

 

 

引きっぱなしの津奈木と、押しっぱなしの寧子。二人の関係は常に「静」と「動」であり、温度感は常に真逆。それでもお互いを必要とし、同じ屋根の下に住み、同じコンビニで買って来た弁当を食べるのは、何故なのでしょうか。

 

その理由を本編ラストでうっすらと読み取ることができるのですが、個人的には、きっと二人が抱える「生きづらさ」は、お互いを少しだけ、「羨ましい」と思う気持ちが混じっているんじゃないかと思っています。

 

 

無関心だと自分でもわかっているから、感情を曝け出している人を疎ましく思う反面、羨ましくもある。

自分自身に振り回されて、それだけで疲れてしまうから、何事にも距離を置ける人を妬みつつ、少しだけ憧れる。

 

こんな気持ち、皆さんも感じたことがあるのではないでしょうか? もしそうであるなら、見始めた当初は振り回されっぱなしだったはずの皆さんも、いつの間にか寧子と津奈木の内側に、自分たちの存在を見つけることができるのではないかと思っています。

 

好きな人と別れることができても、自分自身とは一生別れることができない。

 

生きづらさを抱える全ての人に向けた作品が、『生きてるだけで、愛。』ではないかと、あくまでも筆者個人の感想ですが、お伝えさせていただきました。

 

上映は、11月9日からです。

 

 

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ぜひご応募いただき、おやすみ前に心安らぐ香りをお楽しみください。

 

 

映画『生きてるだけで、愛。』
11月9日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー

出演:趣里 菅田将暉 田中哲司 西田尚美/松重豊/石橋静河 織田梨沙/仲 里依紗
原作:本谷有希子『生きてるだけで、愛。』(新潮文庫刊)
監督・脚本:関根光才
製作幹事 :ハピネット、スタイルジャム  
企画・制作プロダクション:スタイルジャム  
配給:クロックワークス
©2018『生きてるだけで、愛。』製作委員会
公式サイト:http://ikiai.jp
予告編:https://www.youtube.com/watch?v=Rw_tut2tVcQ

 

カツセマサヒコ

執筆

ライター/編集者

カツセマサヒコ

フリーライター/編集者。
編集プロダクション・プレスラボでのライター経験を経て、2017年4月に独立。
広告記事、取材記事、エッセイ、物語等の企画・取材・執筆を行う。
ツイートが20代女性を中心に話題を呼び、Twitterフォロワーは12万人を超える。
趣味はスマホの充電。


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