【いっそ夜更かしする】六本木アートナイトと東京の夜を歩く

小学生のころ、『金曜ロードショー』を最後まで観たことがなかった。

「子どもは22時半までにベッドに入る」のが、家庭内の暗黙のルールだったからだ。『となりのトトロ』では毎回メイが行方不明になるあたりでテレビから引き剥がされ、私はグズグズ文句を言いながら布団に潜りこみ、眠りについていた。

そんな私も、ライター業を始めてからは慢性的な夜型生活から抜け出せなくなってしまった。生活リズムを正そうと努力してみるものの、結局すぐに夜型に戻ってしまう。

その原因のひとつとも言いたくなるのが、この街「東京」だ。東京には、夜眠らずとも熱狂できるイベントや、眠らぬ人たちを受け入れてくれる場所がいくつかある。

年に一度、港区・六本木では、一夜限りのアートの祭り「六本木アートナイト」が開かれる。

音楽、映像、インスタレーションなど、多種多様なアート作品を六本木の街中に点在させて夜通し行われる同祭典は、2018年5月の開催で9回目を迎え、これまで順調に規模を拡大させてきた。

今回は、眠れない皆さんのために、夜通し続くアートの饗宴「六本木アートナイト」を紹介したい。

 

主な舞台となるのは、六本木ヒルズと、東京ミッドタウンの2か所だ。今回は総勢70名を超えるアーティストによる計88件ものプログラムが、六本木の街に解き放たれる。

「アートと街を一体化させる」がテーマとのことだが、いったい普段の六本木と比べて、どれくらい変わるのだろうか?

ひとつ例に挙げるなら、六本木ヒルズのシンボル・モニュメント「巨大クモ・ママン」。

(『ハリー・ポッターと秘密の部屋』に出てくる「禁じられた森」でポッターとウィーズリーを追い詰めた巨大クモ・アラゴグだと思い込んでいたのは内緒だ)

禍々しい雰囲気もあるママンだが、これが「六本木アートナイト」では、

こんなにポップ。

 

よく見ると、ニットを履いている。

 

ママンの変身は、テキスタイル・アーティストのマグダ・セイエグが六本木ヒルズ15周年記念インスタレーションとして手がけたものらしい。

変身を遂げたママンに、「かわいい~~」と黄色い声がそこらじゅうに飛び交っていた。普段ならありえない光景。

 

華やかでいてカオスなオープニングイベントが終わると

 


気分はオープンワールドのアクションゲーム。さっそく探索開始!

 

 

 

【18:00】知識はなくとも心は震える。圧倒的にフォトジェニックな六本木

 

いざ歩き出してみると、当日は尋常じゃない混雑具合だった。
参加者は皆「ふむ、そう来たか」とアートを熟知した顔をして歩いている(ように見える)。まるで自分ひとりだけ芸術に疎い人間のように思えてきて、心細くなる。

 

しかし、その不安はすぐに消えた。何故なら、

 

 


六本木アートナイト、圧倒的にフォトジェニック。

街並みに突如現れるアートの数々は、知識や教養なんかなくても勝手に心がワクワクしてくるものが多い。普段は汁なし担々麺しか写真を撮らない私だが、ここぞとばかりにシャッターを切りまくった。

 

 

協賛企業とのタイアップ企画も、ビジュアルからして圧倒的なものが多い。メディア協賛をしているBMWと香取慎吾さんのコラボした作品には、より多くの人が集まっていた。

 

ほかにも、「JUST DO IT」などの企業のキャッチコピーをあえて抽象的に捉えずに「実演」してみた作品群《企業からの指令》はなかなかシュールで楽しいし、

 

夜の六本木に浮かぶ光る鳥の羽のアート「鳥の交差点」や、

 

建物全体を織りなすようなカラフルな布の滝「hanging colors」

 

ゲリラ的に参加した一般の方の作品もあった。

(写真は400本のペットボトルを使用して作ったという『スマホ虫』。めちゃくちゃ神秘的かつフォトジェニックな作品で、登場と同時にあっという間に人だかりに埋め尽くされた)

 

 

アートで彩られた夜の六本木は、いつも以上に明るく、華やかだ。「インスタ映え」なんて言われて久しいが、まさにこのイベントこそ、その言葉を体現していた。

 

 

【22:00】見るだけではない。触れる、動かす、嗅ぐのもアート


活気付いた街を歩いていると、ふと、このイベントには誰でも参加しやすい体験型のアート作品がたくさん用意されていることに気がつく。

 

触れた人数や触れた時間の長さによって光り方を変えられる大型の石に模した作品や、

 

 

色とりどりのシールを使って水しぶきを表現する参加型アート、

 

ドイツ・ミュンヘン市内の古書店などから集めた「甘い香りの本」を展示する《The Library of Smell(匂いの図書館)》

 

中でも、参加者が思い思いの「苦い思い出」を描いていくアートは、思わず妄想が膨らんでしまうフレーズの数々に惹き込まれ、時が経つのを忘れて見入る人が続出していた。

 

 

“あの時の一言をもっと信じてたら、きっと今ごろは一緒に居られたかも―――”

 

泣ける。いったい何があったのか。どんな一言だったのか。

人の思い出は、時にアートになるのだと思った。

 

ただ、その上の「ホストファザーが逮捕された」がパワフルすぎて他の思い出が薄まってしまったのも事実だった。

 

このように、普段アートに触れていない人でも気軽に楽しめる作品が充実しているのは、「生活の中でアートを楽しむ」という新しいライフスタイルを提案する、六本木アートナイトならではの特徴だったのかもしれない。

 

そのライフスタイルを体現するかのように、帰り道の途中らしき二人組の女性が足を止めた。

 

「わーこれなんだろう……?」
「あっ東京駅だ! わっすごーい!!」

なにやら、プリントされた写真をまじまじと見つめ感心しきっている。何がそんなにすごいのか……?

近くで見たら、全部シールでできている。

遠くからだと絶対にわからないが、小さな丸いシールいくつも張り合わせて一つの景色を描いていた。技術と発想に驚愕する。

思わず誰かと感動を共有したくなり、辺りを見渡す。

 

カップルばっか。

たまたまだが、特にこの場ではカップル参加が多かった。「六本木アートナイト・デート」なんて、響きがもう最高すぎる。

いや、アートをデートのネタに使うなと怒られるかもしれないが、でも、そんな楽しみ方だってきっと六本木アートナイトは受容してくれるはずだ。根拠もなくそんな気がしたし、筆者もただただデートがしたい。

 

 

【2:00】ライブアート、トークショー、ダンス 熱くなる六本木

最後になるが、同イベント最大の特徴は、なんといってもアーティストの生パフォーマンスを見られることだと思う。

タクシーやカラコーンを組み合わせて「ドラゴン」の頭を模したこちらのアートは、宇治野宗輝氏による作品。牙が輝くと同時に唸り声が響き渡るその姿は、迫力満点だ。

 


宇治野さんが直々に解説してくれるのも、このイベントならではだ。
アーティスト自らが作品について語る貴重な機会を聞き逃すまいと、たくさんの人が押し掛けていた。

 


講演後には感激した様子でサインを求める学生も現れ、業界を志す若者からしたらとんでもなく貴重な場であることが傍目にも伝わってきた。

 


他には数時間に及ぶ作品の公開制作に挑戦しているアーティストもいた。
作品が出来上がっていく瞬間を見るのは初めてのことだったし、なにより作品に向き合うアーティストの熱量に鬼気迫るものを感じた。

 

そして午前3時、六本木ヒルズアリーナはこの夜一番の熱狂に包まれた。

 

六本木アートナイトの名物プログラム『真夜中の盆踊り』

クラブのような、なんとなく筆者の苦手そうな空間に飛び込んでしまった気がして、胸にじわりと不安と緊張が広がった。しかし、いざ始まってみると、

 

超楽しい!!!!!

 

クラブ的な雰囲気は一切なく、陽気なおじさまと踊るポップな盆踊りだった。自然と周りの人とも仲良くなってしまう、ひたすらあたたかい空間であり、筆者は深夜3時に盆踊りをしながら「来年も絶対来よう」と固く心に誓った。

 

 

【6:00】そして、朝を迎える六本木

最後に行われるのは、まさかのラジオ体操である。

 

ただ、このラジオ体操、日本フィルハーモニー交響楽団が演奏するクラシック要素満点なラジオ体操であり、かつてないほどの多幸感を得られるのが特徴である。これほどの人数で行うと、さすがに圧巻。

 

この時点でロケを開始して12時間ほどが経過していたため、満身創痍の筆者はさすがに躍れなかったが、近くのお姉さんが後ろ姿を撮影させてくれた。ラジオ体操を終え、やけに晴れ晴れした表情で彼女は言う。

「お仕事ですか。お疲れ様です。」

その一言ですべての疲れが吹き飛んだ。ラジオ体操、素晴らしきアートである。

 

 

 

終わりに

 

六本木アートナイトは、アートに馴染みがなくても楽しめる、非日常的で楽しい空間だった。

興味深いプログラムが多すぎて相当歩き回るのでめちゃくちゃ疲れると思うが、そのぶんイベント後には快眠が待っている(かもしれない)。少なくとも筆者は泥のように眠ることができた。

 

なお、「来年ぜひ行きたい!」と思った方には、前日までにプログラムを確認しておくことをオススメしたい。中には開催時間が決まっていたり、定員が決まっていたりするものもあり、ノープランで行くと入れない可能性もあるからだ。(夜中にもかかわらず人はエグいくらいいるので、わりと普通に行列ができます)

「これ、イベント後に俺以外全員ラブホ行くだろ……」感が漂うカップルたちの狭間でひとり自撮りを敢行していたときはさすがに辛すぎて泣いたが、自撮りさえしなければ一人でも十分楽しめる。けれど、どうせなら来年はぜひ誰かと一緒に行ってみたいと思う。

 

この記事が、みなさんが眠ろうと頑張ることに疲れてしまったとき、「たまには開き直って夜を遊び尽くすのもありだな」と思えるきっかけになれば、とてもうれしいです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

サノトモキ

執筆

ライター

サノトモキ

1993年うまれのフリーライター。‬
‪編集プロダクション・プレスラボにてアシスタントを務めつつ、さまざまなジャンルの記事を執筆。‬
‪友達からは「忙しいニート」と呼ばれている。クレジットカードの決済日が近づくと口数が減る。


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