ネガティブなことを考えて眠れないから催眠療法を受けに行った

週に3日くらい、寝る前に泣いてしまう。自分が悲惨な目にあうことをよく考えてしまうのだ。ツイートが炎上してキャリアがすべて終わることや、家族や大事な人たちが嫌な目にあってしまうこと。知人が外国に飛び立つ前日、すごく心配になり、眠れずに神社にお参りにいったこともある。帰国後に話したら気持ち悪がられた。

あとは、覚悟を決めて寝るときもある。このまま目をつむったら、一生起きないかもしれない。そんなことを考えて、そうして死んじゃった友達のことも思い出して、いや、でも割と私はいい人生を歩んだ……人は生まれて死ぬのだ……と勝手に悟りを開き、寝るときもある。

 

私は、ネガティブだ。mixiの「ネガティブな人集まれ」というコミュニティに入っていたほどだ。逆に、「ポジティ部」というコミュニティを羨ましく思っていた。

「死ぬこと」への恐怖に襲われることが、日常生活でかなりある。高い場所にいると、「ここから落ちたらどうしよう……」と腰を抜かしてしまうし、隣でボールペンを使っている人がいると「頸動脈を刺してくるかもしれない」と横目でジロジロ見ながら首を隠す。橋を渡るときは、ヤバイ奴がわーっと来てわーっと私を落とすかもしれないと思い、足に力を入れて歩くし、密室にいるときはドアからテロリストが入って来た場合の避難経路を必ず確認する。

私が飛び降りないことも、ペンで刺されないことも、ヤバイ奴がいないことも、テロリストがそうそういないことも、全て分かっている。分かっているけれど、なんか考えてしまう。そういうのってありますよね。

 


▲ダムに行ったとき好奇心で湖を眺めたら腰を抜かした(楽しそうだ)

 

もっと言うと、私は脈がマジで無理だ。「脈」という字を見るだけで全身に力が入り、「わー」と叫びたくなる。理由はよく分からないのだけれど、脈を切ると死んでしまうからかな。映画などでそういうシーンが出てくると目をつむる。どうしても見ることができない。あと自分の手首を無防備にできなかったりもする。やばい人がいたら危険だからだ。トラウマがあるわけではない。高校生くらいからか、怖がっている自分を自覚するようになった。

 

寝る前に悲しい気持ちになって泣くけれど、不眠ではない。むしろ、毎日8時間くらいぐっすり寝ている。死への恐怖に襲われるけれど、日常生活にあまり支障はない。病気でもないし、なんだか少し生き辛い程度だ。

だからこそ、解決法などない気がして、ずっと放っておいた。しかし欲を言えば、やっぱりもっと安心して寝たり生活したりしたい。

 

そこで私は催眠療法を受けに来たのである。テレビとかで見たことがある催眠術。芸能人がよく犬になるやつ。あれがセラピーに転用されているらしい。かなり胡散臭いし、怖い。でも、知人に「催眠術でとても幸せになった」と不穏な笑顔で勧められたので、なんとなく安いところを予約してみた。

「退行」という催眠術があり、過去に遡ってトラウマになったことなどを思い出させて解決することができるらしい。それが本当なら、なかなかすごいぞ。しかし、ホームページを見ると「幸せな結婚もできる!」と書いてあり、やはり胡散臭いスメルがかなりある。

 

ぐっすり寝るために来たものの、前日は「催眠術師に殺される」という悪夢を見て眠れなかった。メールに書いてある場所は、マンションの一室だった。チャイムを鳴らすと優しい感じのおじさんが出てきた。お茶を出されたのだが、「これは毒かもしれない、いや確実に毒だ」と思い、飲むのをためらった。催眠術セラピーについての説明を受け、カウンセリングが始まる。眠る前のことや、日常生活でのことをかなり赤裸々に話した。

 

本格的なセラピーを始める前に、催眠術にかかりやすい体質かをチェックされた。円の中に十字が書いてある紙を床に置かれ、石がついてあるチェーンみたいなものを渡された。あの、ハンターハンターのクラピカが持っているみたいなやつだ。それを十字の中心点に垂らし、じっと見つめる。頭の中で、円を描くように回るイメージをする。すると、手を動かしているつもりはないのに、どんどんチェーンが回っていくのだ。どうやら私は、催眠術にめちゃくちゃかかり易いタイプだそうだ。やったね。

 

セラピーが始まる。リクライニングチェアに座り、目をつむる。先生の「リラックスしてください」という声と、BluetoothスピーカーとiPhoneがペアリングする音が聞こえる。「あなたはだんだん暗いところに行きます」という声と、カチッカチッと電気を消すヒモを引っ張る音が聞こえる。まぶたの裏から感じるが、たぶん小ちゃいオレンジのやつは付いている。助かる。

そこから、先生の指示に従い、白いボートの上に一人で寝そべって、太平洋の真ん中あたりでぷかぷか浮かんでいるイメージをした。すると、体が動かなくなった。心地の良い金縛り、みたいな感じだった。

 

そこからあまり記憶がなく、夢を見ていた。あまり眠れなかったから、普通に眠ってしまったみたい。少しして起きると、一つのシーンを思い出した。

小学1年生くらいのときの夏休みの記憶。

当時住んでいた家からだいたい10分くらいの四叉路の奥。自販機の下にある小銭を友達と集めている。真っ直ぐ行くとパン屋があって、後ろは自宅のほうで、右は忘れて、左は通っていた小学校。道と道の間に、大きな木がある広い空き地があった。虫が沢山獲れるらしい、姉がよく言っていた。木にブランコが下がっていたような記憶もある。よく遊んでいた場所だったが、ある日、母と祖母に「あそこで女の人が自殺した」ということを聞いた。言葉で言われたか想像したかは分からないが、ブランコの下がっていた大きな木で首を吊ったと思っている。しばらくして通ると、空き地は封鎖されて、ブランコは無くなっていた。

 

その記憶を思い出して、なぜか涙が出てきた。死というのを初めて感じた時だったかもしれない。やっと思い出せたような気がした。しかし、催眠療法から帰ってから母に聞いてみたら、全く覚えがないようだった。母が近所に住んでいた人たちにも聞いてくれたが、みんな記憶にないようだった。もしかしたら、私の思い違いかもしれない。亡くなった女性はいないかも、それだったらいいなと思いながら、記憶にある場所に行ってみることにした。

 

空き地はなくなっていて、施設みたいなものが建っていた。大きな木があった。事実は分からないけれど、私の記憶では18年前に人が亡くなった場所だ。18年間で、自分で自分を殺してしまう気持ちがわかるようになった。現実がどうしようもなく辛く思えて、追い詰められ、この先の選択肢は死しかないような気になったこともあった。うまく言葉にできないけれど、そういうことを思った。

 

催眠術中に思い出したことはまだある。というか、さっきのことを思い出して先生に泣きながら言ったら「もっと他にありますよね……」とささやかれて、無理に思い出した。

今度は小学6年生だ。深夜に目が覚めてしまって、リビングへ行くと父が映画を見ていた。父は「この映画は大人向けだから子供は見ちゃダメだよ」と言ってきたが、そう言われるとムカつくので、リビングに居座った。

 


▲私の小学校の卒業アルバムに書かれた寄せ書き

 

断片的にしか覚えていないが、エロい映画だった。気まずかった。でも、ここで寝室に戻ったらエロいシーンで気まずくなったから戻ったと思われ、もっと気まずいので居座ることにした。

女の人がリストカットをして亡くなるシーンを覚えている。元気だった女の人が、急に自殺をしてしまうストーリーだった。ショックだった。また、泣きながらそのことを先生に話した。

先生が、「過去を克服するためには、今の視点で過去としっかり向き合いましょう」とアドバイスをくれたので、映画をもう一度見てみることにした。ただ、映画のタイトルが分からない。それに内容も曖昧だった。グーグルでも全く見つからず、ヤフー知恵袋で聞いてみたが回答はゼロ。思い切ってツイッターで聞いてみることにした。

 

 

すると、すぐに見つかった。『偶然にも最悪な少年」、タイトルを聞いてピンときた。主演は市原隼人と中島美嘉。AmazonでDVDを注文して、さっそく見ることにした。

 


やっぱり記憶を脚色してしまうのだろうか、思っていたような直接的なシーンはなかった。ただただ良い映画だった。市原隼人、やっぱかっこいいな。元気だった女性が突然自殺してしまう理由も、今なら文脈から読み取れる。

 

2つ過去のトラウマ的出来事を思い出した。これで催眠が解かれる……と思ったが、「まだ……何かありますね……もう少し遡りましょう」と言われた。いや、正直もうないぞ。もうない。と思いながらも、なんとか絞り出した。これは、小学2年生くらいだろうか。昔住んでいた家にいる。母と口論をしている。多分、私が何か悪いことをして、それを母が叱り、それに対して私が逆ギレしているのだと思う。そこでカッとなった私はキッチンに行き、包丁を手に持って、母に向けた。絞り出した思い出なのに、泣きながら話した。

 

自分が包丁を人に向けてしまうことがショックだった。自分自身への信頼がなくなった。母も大変ショックだったと思う。

2人きりで真剣な話をするのは恥ずかしい。でも、ずっとモヤモヤしたままでは嫌だった。少し冗談を言いながらも、こういうことがあったよね、と母に話した。すると、「……ごめん、全く覚えてない。でも謝って」と言われた。こう言われると謝るのが嫌になるけれど、素直に謝った。ごめんなさい。

 

母曰く、自分の半分くらいの子供が包丁を振り回しても全く怖くないそうだ。それよりも、反抗してくれて嬉しかったとのこと。私は子育てをしたことがないから分からないけれど、そういうものなのだろうか。久しぶりに母にご飯をご馳走した。

絞り出したトラウマだけれど、この3つが私のネガティブさを形成した過去のようだ。最後のトラウマを言った後に、「はい、分かりました」と、催眠を解いてくれた。これ以上なかったからよかった。カチカチと電気をつける音と共に、私は現実に戻った。

先ほども言ったけれど、今から過去を見ることは大切だそうだ。幼い頃に大変なショックを受けたことも、今しっかりと向き合えば、肯定してあげることもできる。私の場合で言うと、記憶違いがトラウマ化してずっと胸につっかえていたようだった。それが知れただけで、心が軽くなる。催眠術を使わなくても思い出せそうなことだったようにも思える。日頃の忙しさの中で、思い出すのを忘れていたのかもしれない。

 

高えなと思いつつも1万5千円を払い、お礼を言って後にした。結局、出されたお茶は怖くて飲めなかった。帰ってからぼーっと見ていたドラマのリストカットのシーンでチャンネルを変えた。

日々、社会でせっせと生きている。人が自ら死を選ぶことや、悪人がいること、自分がとんでもないことをする可能性があること。とても複雑で曖昧で矛盾だらけな現実を一つ一つ受け入れてきたのだ。ネガティブになって当たり前だ。
眠れなくてもいいや。不安に苦しめられても別にいい。人生の全てが楽しくなくてもいい。

枕の高さが気になる。クローゼットの隙間から気配を感じて慌てて閉めに行く。眼球の定位置がどこか分からなくなる。鍵を閉め忘れていないか不安になる。寝ている間に火事になったらどうしよう。ベランダからテロリストが入ってきたときの対策を考える。
空が白み、そんなことを考えて眠れないバカの輪郭が照らされた。たぶん、もうちょっとで寝られるはず。

 

 

 

藤原麻里菜

執筆

文筆家/ 映像作家/無駄づくり

藤原麻里菜

1993年生まれ。頭に浮かんだものを作る「無駄づくり」を主な活動とし、YouTubeを中心にコンテンツを広げている。2018年、国外での初個展「無用發明展 in台北」を開催し、2万5千人以上の来場者を記録。 でも、ガールズバーの面接に行ったら「帰れ」と言われた。

Site: scrapbox.io/marinafujiwara/

Site: https://www.youtube.com/user/mudadukuri


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