【36時間連続更新18本目】上司に初めて褒められた日

「サラリーマン時代の思い出を書いて欲しい」みたいなオファーを受けたので書く事にする。
すごく厳しい上司のもとでせっせと働いてた時の事だ。

当時の僕は、いわゆる小売店に大量にモノを卸す仕事をしていて、年末に差し掛かったころでずいぶんと忙しくしていた。
一緒に組んでいた上司は厳しい人で、かつその人自身もめちゃくちゃ仕事が出来る人であったので「お前もまだまだやな~」みたいなテンションで普段から僕に接しており、僕はその上司からずーっとヒヨッコ扱いをされていたことを覚えている。

どこの小売店でも大抵、「重要な行事」みたいなものがある。
年に一度の創業祭だったり、お正月の「初売りセール」なんかがそれにあたる。
年末の時期は毎年、その「初売りセール」に向けて商品の在庫を確保したり海外から入ってくるコンテナのスケジュールを組んだりするのだけど、
その「初売りセール」の目玉扱いになっていた商品の出港スケジュールが大幅に遅れたのである。

中国からの輸入品だったので、中国の現地法人に確認を取るも要領を得ない回答が返って来る。
今はマシになったのかも知れないけど、当時は中国からの船が遅延することなんてザラにあったし、
出港予定日になってから「一週間遅れます」って言い放って来るようなケースが多発してたのである。
春節の時期なんて本当にめちゃくちゃだった。

とはいえ、大事な大事な初売りの商品である。
他のものならともかく、絶対に遅れるわけにはいかない。

現地法人を急かしまくり、社内稟議もめちゃくちゃな通し方をして自分の荷物を最優先に社内調整をし、上組なんかの港湾業者にも根回しした上でなんとかギリギリ間に合うかな、くらいのタイミングで国内に持ち込む事に遂に成功。慌てて出荷して小売店の店舗に在庫をばら撒いたのだけど、結論から言うと納品した商品の内半分くらいが不良品だった

これは完全に、マジでヤバい感じのやつである。「早く荷物をよこせ」って急かしまくったのが良くなかったのかもしれない。
ロクに検品もせず、超特急で仕上げたものを送ってきたのだろうし、国内に入ってからも検品する余裕がなかった。

状況は最悪に近い。初売りの商品で納品した商品の在庫の半分が不良品という事は、お店に売るものが半分しかないっていう事になるからだ。
目玉商品の在庫が少なく、一瞬で売り切れたら買いに来たお客さんだって怒るだろう。
当然、担当バイヤーがブチ切れた。

「お前の会社の倉庫に残ってる商品も、全部検品した上で残った良品を今すぐ出荷しろ!現場にはお前が立ち会え!」

もっともな言い分である。
しかしながらここまでの事態となると僕の一存で動けるようなものでもない。
なにせお休みの日なのに倉庫を稼働させなくてはいけないのだ。
とりあえず状況を上司に相談すると、

「なるほど。検品と出荷は当然やらなあかんけど、お前が現場に行く必要はないやろ。適当にごまかしとけ」

なんて言う。
その商品を扱っていた倉庫は栃木にあったので、当時僕が住んでいた神奈川県の川崎市からはずいぶん遠い。
それに実際の検品は倉庫の人にお願いしてやって頂けば済む話なので、確かに僕自身が行く必要は無い、とも言える。
そんなわけで僕は倉庫の人に電話で事情を話してやりとりをしつつ、
その検品の結果を、さも現地にいるかのような顔をしてバイヤーに報告したのである。

「すいません、今現場でモノを見てるんですけど、やっぱり不良品が半分くらいありますね……」

「じゃあ残った在庫はどれくらいある?」

「2,000個くらいです」

「それを大至急店舗に出荷してくれ」

「わかりました。あと、次の在庫も空輸する事にしまして、今納期を確認中です」

「わかった。とりあえず、俺も今からそっちに行くわ

まあ、完全にパニックになるよね。

倉庫は栃木で、僕が神奈川で、バイヤーは千葉の柏に住んでたからね。

「終わった!」って叫んだよね。

「もうぜんぶ、終わりました!」って。

普通に考えればどう考えたってバイヤーの方が先に到着するし、到着した時に僕が居なかったらまず間違いなく怒り狂うよね。
ほぼ確実に、取引停止になるなって思った。年間ン十億の売上がパアになるな、って思った。

真冬である。

バイクに飛び乗るのである。

栃木に向かって走り出すのである。

普通、真冬にバイクに乗る時は相当な厚着をしなければいけない。
高速に乗る時なんて特にそうだ。
とはいえ、当時の僕は高速で長距離ツーリングなんてあんまりしなかったわけで、
要するに真冬にバイクに乗る装備なんて持っていなかったのである。

寒さに震えながら。風に煽られながら、ひらすらにハンドルを握る。
生きた心地がしなかった。
ただでさえめちゃくちゃ大きなミスをしでかしたのに、
その上でウソをついてた事までバレたら下手すると本当に一撃で取引停止になるかもしれない。

結局、フラフラになりながら倉庫の門をくぐった3分後にバイヤーの車が到着した。
体が芯まで冷え切っていたけど、なんとか体裁を保ちながら「こういう状況でして~」なんてしたり顔で説明するのである。

「なるほど、まあなんとかなるかな……」

と、バイヤー。
その後の入荷状況の打合せも無事に終わり、休みの日とかで昼過ぎにやっと電話に出た上司に一部始終を報告する。

「バイヤーが急遽倉庫に来る事になりまして、慌ててバイクを走らせたんですがギリギリ、3分差で間に合いました……」

「おお!良く間に合ったな!でかしたぞ!」

これが、その上司が僕を最初に褒めてくれた言葉である。
やはり、会社員もフリーランスも、修羅場をくぐりぬける事で成長してゆくものなのかもしれない。
そういう意味では今回の36時間連続更新、っていう企画だって、自分自身の成長に繋がるといいな、なんて。

※ちなみに、取引は停止になりました。


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