毎週日曜夜10時に公開されるナイト・エッセイです。あしたから職場へ向かう皆さんに、おやすみ前にぴったりな読み物をお届けします。

夜中、猫についていってみると

 私、菊池良はフミナーズの原稿に何を書くか思案していた。今日が締切当日で、日も落ちて外はすっかり暗くなっていた。タイムリミットは刻一刻と近づいている。しかし、何も思い浮かばず、自宅の仕事部屋でパソコンの前に座って途方にくれていたのだった。周囲をペットの猫がうろちょろしている。

 「何か面白いことはないかねえ」

 傍らの猫に話しかけると、「ありますよ」と返事が。

 「ついてきてください」

 そう言う猫のあとを追いながら、私は「どうせ、プレステ4でしょ」とぼやいた。面白いことと言えば、プレステ4。周囲の人間はみんなプレステ4に夢中で、私はそんな現状を嘆いていたのだ。何がコールオブデューティーだよ。まぁ、クオリティが高いのはわかるけど。俺も買えたら買うさ。値段がね。っていうか、テレビが家にないしねぇ。あぁ、大人になると友達の家でゲームを見るって体験がないわな。その代わりがゲーム実況なのかしら。一緒に「熱血硬派くにおくんサッカー編」をやっていた池田くん、元気? この原稿を見てたら連絡してくれ。

 

 着いた場所は日比谷公会堂。自宅から約40キロ歩かされた。

 「ここで今日B’zのライブがあります」と猫が言う。

 しかし、私はチケットを持っていなかったので見ることができなかった。仕方ないので地面に座り込み、漏れ聞こえてくる音に耳を傾けていた。レディ・ナビゲーション。

 「いやはや、B’zは好きでも嫌いでもないが、生で耳にすると(生じゃないのだが)身体が踊りだすね」

 すると突然、爆発音がして、振り返ると日比谷公会堂がなくなっていた。日比谷公園でいちゃついていたカップルもみんなやってきて、ざわざわと騒然となり、消防車もパトカーもやってきてライブ以上の大騒ぎとなった。

 「こんなことがあるのか」

 私が動揺していると、

 「こんなことが、あるんですよ」

 と猫が言う。さらに私の肩に手を置き、慰めてくれた。しかし、これは面白いことではなく、悲惨な出来事だ。

 「この近くに占い師がいるんですよ」

 猫が言うには、近所で「ルミナス」という名前の占い師が店を開いていて、よく当たると評判だそうだ。そこへ行こうと私の服の袖を引っ張る。しかし、目の前でロックスターが吹っ飛んだというのに、この猫はなぜこんなにも冷静なのだろう。やはり獣に感情はないのか。

 

 「あなたには死相が出ていますね」

 ルミナスは私の目を見ながらそう言い放った。おいおい、マジかよ。おれもルミナスの目を見つめた。後ろの壁には「取材されました」と雑誌のコピーが。何の雑誌だろう。こういうのってよく飲食店にあるけど、店主が自分で雑誌っぽいデザインの紙面を作ったらわからんよな。やる意味もないかもしれんけどさ。そうか、ルミナス……雑誌に取材されてしまうほど当たるのか。じゃあ、おれも死ぬのかな。いつかな。50年後だといいな。

 「明日、死にます」

 ゲェーッ。頭が真っ白になった。明日……? 明日って……今21時だからあと3時間しかない……。えぇーっ。やだなぁ。顔面蒼白になっているだろうおれを、ルミナスは黙って見つめている。いやいや。なんか救いのある言葉を言ってくれよ。ラッキーカラーとか。カラーじゃ死はまぬがれんか。はぁ。何か言ってくれ。何かを……って、ん? ルミナス、お前……その顔……見覚えあるぞ……。

 「ひょっとして、池田くん?」

 ルミナスは池田くんだった。一緒にファミコンのくにおくんシリーズを遊んだ池田くん。『ビックリマン』の放映に合わせて急いで帰っていた池田くん。特に成績が良くも悪くもなかった池田くん。毎日のように遊んでいたのに高校進学とともに一切連絡しなくなった池田くん。
 その池田くんが今、目の前にいる。占い師として。ルミナスとして。

 「いや、違います」

 違ったのだった。あぶねえ。うっかり赤っ恥をかくところだった。いや、もうかいているか。でも、似ているなあ。いや、似てないか。それにしても相談料30分6万て。払えんよ。でも、相談しちゃったから払うしかないんだよなぁ。それが資本主義。

 

 「という、ゲームはどうでしょうか」

 私はソニーの役員にプレゼンテーションをしていた。プレステ4の新ソフト開発のためのプレゼンだ。これが承認されたら予算が降り、開発に着手できる。

 「ええと、つまり占いのゲームか?」
 「いえ、違います。建築物を爆破するゲームで、占いはおまけ要素です」

 却下だった。日比谷公会堂やB’zの許可が取れないだろうと。そりゃそうだなと思った。B’zにメリットがないもの。レディ・ナビゲーション。頭では理解できたが、私はひどく落ち込んだ。帰宅途中の電車でスマホをいじっていたが、何を見ても頭に入ってこない。家に帰ると、飼い猫が部屋のなかを駆け回っている。その姿を見て、ふと言葉を漏らした。

 「何か面白いことはないかねえ」

 私は長い迂回を経て、スタート地点に戻ってきたようだった。

 

 

菊池 良

執筆

ライター

菊池 良

1987年生まれ。2017年に出した書籍『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(共著・神田桂一)が累計15万部。そのほかの著書に『世界一即戦力な男』がある。


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