毎週日曜夜10時に公開されるナイト・エッセイです。あしたから職場へ向かう皆さんに、おやすみ前にぴったりな読み物をお届けします。

タモリは今寝ているだろうか?

 

 自分ひとりの暗い部屋のなかで、コップに入れた水に口をつけた。身体に水分が行き渡っていくのがわかる──砂漠に水を撒く気分──さっき広げた掛ふとんに身体を潜らせた。

 

 目を瞑る。すぐに眠れるわけではない。何もすることがなくて、思考が沈殿していく。なんだか姿勢が落ち着かなくて、左を向く。また戻す。夕方にはあんなにあくびをしていたのに、ベッドに入ると治まるのはなぜだろう。時計の針。冷蔵庫の振動。まぶたの向こうに車のヘッドライト。クラクション鳴らしたらぶっ殺す。

 

 思考がめぐればめぐるほど、気持ちは冴えてきた。早く眠りたいのに、と思いながら、シナプスは発火していく。

 

 今日を振り返ろう──ランチは何を食べたんだったか──ああ、唐揚げ定食だったな───壁にかかっていたハイボールのお尻のポスター──いつか剥がされるんじゃないだろうか?──タピオカミルクティーがなくなるかもしれないって?──それは残念──ぼくに何かできることはないだろうか──何もないな。

 

 やたら汗ばむ。

 

 時計の針の音がやたら大きく聞こえてきた。一度気になりだすと聴覚が研ぎ澄まされる。デジタル時計にしとけばよかった。でも、デジタルだと時間の前後がわかりにくいんだよなぁ。日時計の空間性はすごい。ああ、もう、パッと目を開ける──1140──すぐに閉じる。昼間会ったあいつも、今ベッドの中か?

 

 誰もが同じ時間を生きているというのは、少し不思議な気がする。今1140分を生きている、ジャスティン・ビーバーもブルーノ・マーズも──いや、時差があるか。

 

 タモリは今寝ているだろうか?

 

 そういえば以前──「タモリさん常連の店」と入り口に紙を貼っていた店があったな──本当かどうかはわからない──たぶん嘘──いやいや、ひょっとして?──でもそこで会っても緊張して話せないな──タモさんより詳しく話せることがないし──タモさん、「今夜は最高」って今夜も?

 

 退屈で身体が強張る。立ち上がってトイレに行こうか? 尿意がある気がする。さっき飲んだ水だろうか。しかし、それも気のせいなのかもしれない。消え失せた尿意はどこにいくのだろう。

 

 タモさんはベッドに入りながら何を考えているんだろう? りゅうちぇるは? あるいはペコは? 生まれたばかりの赤ちゃんはどんな夢を見るのだろう。

 

 日本には今、1億以上の人がいて、同期された夜のなかでたくさんの人が寝ようとしている。イルカは超音波でコミュニケーションを取っているという。眠気の波を泳ぐ僕らは、いつかベッドのなかから通信ができるようになるんだろうか?──「おい、もう寝た?」──たいてい寝ていない──というか、その声で起きる──あの修学旅行の夜がまた?

 

 ああ! 意を決して立ち上がる。トイレに行こうと思う。時計を見る。650分。どういうことだ? ああ──気がつくことすらなく寝ていたのか。

 

 脱力してもう一度ベッドに倒れた。今日は8時半までに電車に乗れば間に合う──気持ちがまどろんで視界が溶けていって──たぶん起きれるはず──思考がまたランダムに動き出す──丸亀製麺のオフィスでは亀を飼っているんだろうか──湿った空気がガムのように引き伸ばされて──湖が見えてくる──これは危険な兆候だ──もっとゆっくり、それっきり。

 

菊池 良

執筆

ライター

菊池 良

1987年生まれ。2017年に出した書籍『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(共著・神田桂一)が累計15万部。そのほかの著書に『世界一即戦力な男』がある。


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