今回で連載の第11回目となります。今回は、私が実際に行った「認知行動療法」という治療法について書いていきます。前回は、不眠の根本的な解決をしないまま、睡眠薬に頼り続けた結果、再び眠れなくなってしまい、結果的に仕事を続けられなくなった、という所まで紹介させて頂きました。「認知行動療法」は、その後に私が出会った治療法です。

睡眠薬に代わる「認知行動療法」で、私が不眠治療に前向きになれたワケ

これまでご紹介してきた通り、私は幼い頃から不眠に苦しみ、約20年もの間、不眠に悩んできました。また、病院での治療も10代の頃からはじめ、睡眠薬の服用も5年以上の経験があります。そんな私も紆余曲折あり、連載1回目でご紹介した通り、色んな方法を試しながら、やっと数年前に不眠を克服することができました。
 
「認知行動療法」をご存知の方はあまりいないかもしれませんが、不眠で悩む方の何かのご参考になれば幸いです。

認知行動療法との出会い

不安

仕事を辞めたこともあり、療養がてら一時的に実家に帰っていました。療養のおかげで、しばらくすると体調は少し回復したものの、不眠は変わらず続いていました。
 
「このままずっと不眠が治らず、一生まともに働くことはできないのではないか?」
 
そんな恐怖が日々襲ってきます。そんな私の不安を察してか、父が、ある時こんな言葉をかけてくれました。
 
いくらお金がかかってもいいから、しっかり今のうちに治そう。不眠と向き合おう
 
最初は、乗り気ではなくなかなか行動には移せませんでした。「20年も治らなかった不眠が治るわけがない」と、半ばあきらめていたからです。
 
しかし、家族が粘り強く同じメッセージを伝えてくれたおかげで、少しずつですが自分の中で気持ちが変わってきました。受診してみよう、という気持ちになっていったのです。今考えると、それまで私は不眠の問題から逃げていたように感じます。不眠の問題と向き合うことが怖かったのです。
 
他の人は眠れているのに、自分は眠れない。
 
「眠れない自分はおかしいんじゃないか?」
 
そんな思いが小さい頃からありました。だからこそ、眠れないという事実に向き合うことが怖く、無意識のうちに避けていたのです。しかし、それでは問題を解決できるわけがありません。
 
「今回の出来事をキッカケにしっかりと向き合って、不眠を克服しよう」
 
退職や家族の言葉をキッカケにそう思えるようになりました。
 
それからは自分でも病院や不眠について調べはじめました。そしてある日、不眠に関する本を読み進めるうちに「不眠症に対する認知行動療法(CBT-i)」という治療法があることを知りました。
 
認知行動療法とは、薬だけに頼らずに、睡眠について学び、不眠の原因となる行動や考え方を変えることで不眠の改善を目指す治療法です。
 
それまでの自分にはない視点で、とても新鮮でした。一概に睡眠薬が悪いわけではないですが、それまで私は睡眠薬に頼りすぎて自分の睡眠の問題から逃げてしまっていたので、私にとっては自分の睡眠に向き合うには非常によい治療法だと感じました。

京都から東京の病院へ通う日々

クリニック

それから認知行動療法ができる病院を調べ、治療を開始しました。
 
認知行動療法の治療を実践できる病院は全国でも数少なく、私は実家の京都から東京まで治療のために睡眠専門のクリニックに通うことにしました。有名な病院のようで、予約をとってから受診するまでに1ヶ月ほどかかりました。治療のために東京に行くのにはかなりの時間と交通費がかかることはわかっていましたが、それでも「この機会に絶対に不眠を治す!」と覚悟を決めていました。
 
「睡眠専門の病院は一体どんな診察をするのだろう?」と思っていましたが、実際行ってみると意外にもオーソドックスな診察でした。しかし、今まで見たことのないような睡眠に特化した問診票や診察での質問もあり、「やはり今までの病院とは違うのかな?」とも感じていました。
 
私自身は認知行動療法での治療を希望していたのですが、病院側としてはまずは認知行動療法の適正があるかどうかということを確認したかったようで、初回は治療というよりはこれからの治療方針を決めるための診察のようでした。
 
診察の結果、慢性的な不眠という症状と、私自身の希望から、次回以降は念願の認知行動療法のカウンセリングで治療を進めていくことになりました。認知行動療法のカウンセリングは意外に早く予約がとれ、一週間後には受診することができました。

たっぷり50分のカウンセリング

カウンセリング

それまでの睡眠薬をもらう治療は長くて10分、短い時は3分程でしたが、認知行動療法のカウンセリングはたっぷり50分もありました。今までの何倍もの時間の診察に「50分も何をするんだろう…?」とはじめは疑問に思っていました。
 
カウンセリング当日。名前を呼ばれ、患者はそれぞれ先生がいる個室の診察室に入っていくというスタイルでした。いよいよ先生にご対面です。
 
まずは自分の不眠の症状や今までの不眠の経緯などをじっくり聞いてくれました。こんなにじっくり自分の睡眠の話をしたのは初めての経験でした。
 
話していくうちに、担当の先生がなんと認知行動療法を知るきっかけとなった本の著者であることがわかりました。私は、勝手に運命的な出会いだと思っていました。
 
まだカウンセリングの1回目ということで、あまり具体的な改善策の話にはうつらず不眠の仕組みやこれから行なっていく治療の流れを説明されました。不眠の仕組みを説明されたのは初めてなので、とても新鮮でした。よく考えるとなぜ今まで知らなかったんだろうという話ですが、意外に知る機会や教えてくれる人がいなかったのです。
 
そして、次回までに「自分の睡眠記録をとってくる」という宿題を渡され1回目は終了しました。

睡眠記録をとる毎日を経て、それまでの常識が覆された

アプリ

次回診察までの間は、とにかく睡眠記録を必死でとっていきました。
 
睡眠記録は、クリニックから渡された紙の睡眠表を使用して、以下のような項目を記録していました。

  • 起床時間
  • 就寝時間
  • 寝つくまでにかかった時間
  • 途中目が覚めていた時間
  • 昼寝の有無とその時間
  • 睡眠薬の有無とその服用量
  • 日中の活動の満足度
  • 寝起き満足度
  • 睡眠効率

 

基本的には毎日その日のうちに記録するのですが、記録を忘れてしまい、時にはまとめて数日分記録をとるということもありました。忘れしまった時のために、スマートフォンの睡眠記録アプリも併用していました。
 
睡眠記録をとると自分の睡眠の悪さを見直すようで少しつらかった記憶があります。初回の宿題はただただ睡眠記録をとるだけだったので、早く次回の診察が来て、もっと具体的に行動したいなーと思っていました。次の診察が楽しみというのは初めてだったかもしれません。
 
そしていよいよ2回目のカウンセリング。前回のカウンセリングから2週間ほど経っていました。睡眠記録を見ながら具体的に治療について話していきました。最初に指導されたのが、ベッドの使い方と起床と就寝の睡眠スケジュールの設定です。
 
なぜ眠れないのかという点を初回のカウンセリングより詳しく説明してもらいました。
すると、どうやら私の症状は睡眠に対する考え方や行動によって引き起こされている可能性が高いということがわかりました。特に長年の不眠による、心理的な恐怖感が強くそれが不眠を継続させているということでした。
 
たとえば、「今日も眠れないのではないか」と不安に感じたり、「早く寝なければならない」と必要以上に寝ようと努力することが「眠りにくい」状態をつくり、それがさらに睡眠に対する不安やこだわりを強くさせる…という悪循環に陥っていたのです。この状態に陥るとストレスなどの明確な理由がなくても、不眠が慢性的に続くことにもなりかねません。
 
私はまさにこの状態でした。ストレスなど明らかに原因だと考えられるものがあれば、それを取り除けば眠れるようになるだろうと思えるのですが、それがなかったのでどうしたらいいかわからず、絶望感と諦めがずっとあったのです。
 
その状態を抜け出すには、まずはその悪循環を断ち切ることが重要です。そのために行なったのが、ベッドの使い方と睡眠スケジュールの設定です。簡単にいうと、できるだけベッドにいる時間と実際に眠っている時間を同じにするということです。
 
なぜなら、ベッドにいながら眠れない時間が長いと身体が勝手に「ベッド=眠れない」という条件づけを作ってしまうからです。すると、ベッドに入っても身体が自然に眠りにくい状態になり、不眠が継続していく要因になるのです。
 
確かに自分のことを振り返ると、ベッドに入るまでは眠たいのにベッドに入ると目がさえてしまったり、色んな不安が出て一向に眠れないということがありました。今までは次の日のことが不安で、できるだけ早くベッドに入っていたのですが、実はそれは逆効果だったのです。小さい頃に「眠れなくてもベッドに入っていれば疲れはとれるよ」と言われて信じていたのですが、それも実は間違っていたということになります。
 
今までの常識を覆されたことは衝撃的でしたが、逆に見れば間違った習慣をなおせば自分の不眠も克服できる可能性もあるのだと考え、気持ちは前向きでワクワクしていました。
 
それから数週間は、「眠たくなるまでベッドに入らない」「眠れない場合はベッドから出る」「ベッドは睡眠以外で使わない」というベッドの使い方に加えて、「起床時間を固定して、起床後は太陽の光を浴びる」という睡眠スケジュールに関する目標を実践していきました。最終的には睡眠スケジュールも厳密に決めることになるのですが、いきなりは難しいだろうということで、上記の目標でしばらく進めていくことになりました。

言うは易く行うは難し、しかし継続は力なり

気持ちのよい目覚め

目標を立てたものの、実際に実践してみると、これがなかなか難しい。不安で早くベッドに入ってしまったり、起床時間もばらばらになってしまったりとはじめは一つの目標を達成するのも難しかったです。
 
目標を実践し、身につくまでは1ヶ月ほどかかりました。本当に少しずつですが、だんだん実践できるようになっていきました。
 
実践できるようになってくると次第に「眠ることができた」という経験が増えてきました。今まで3時間かかっていた寝つきが、2時間半になった、2時間になったというように、目に見える成果としてあらわれてきました。
 
今まで自分が独学で試してきた方法とは明らかに違い、はっきりとした効果が得られました。
 
さらに「眠れる」という成功体験が増えていくと、次第に睡眠に対する不安や恐怖、過剰なこだわりが少しずつ減ってきたのです。だんだん悪循環から抜け出せてきた実感がありました。そして不安が消えると眠りやすくなり、また成功体験が増える、という好循環に乗ることができました。
 
慣れてきたところで目標とする睡眠スケジュールをより厳密に決めたり、その他の生活習慣の改善などの治療を進めていくことで、さらに効果が出て来るようになりました。
 
次第に、課題であった寝つきの悪さも改善されてきて、睡眠も安定してきました。睡眠が安定してくると体調も安定し、同時に生活も安定してくるようになりました。
 
その時はまだまだ睡眠薬の服用は続けていましたが、それでも久しぶりに「眠れる」という幸せを感じられるようになってきました。治療をはじめるまでは、3時間程度かかっていた寝つきの悪さもほんの半年ほどで1時間以内には眠れるまでに改善しました。いつもより早く「眠れる」という感覚的なことだけでなく、毎日とり続けていた睡眠記録でだんだん自分の寝つきまでの時間が短くなる様子がわかりました。当時の私にとっては、それだけで飛び上がるくらいうれしいことでした。

仕組みを理解すると不安が減る

希望

認知行動療法での治療を進めて一番よかったと思うのは、自分の不眠や睡眠に関して仕組みを理解できたことです。実は、私は20年以上自分がなぜ眠れないのかを知らなかったのです。知らないからこそ必要以上に不安になるし、解決策がわからず諦めてしまう。さらに、「◯◯したほうがいい」と言われても背景にある仕組みを知らないのでなかなか続きません。
 
睡眠を学び、自分の睡眠と向き合うことでまずは不安が和らぎました。さらに仕組みがわかることで、それに対する解決策は見えてきました。少し大げさですが、解決策が見えてきたことで、未来に希望をもつことができるようになりました。
 
今までは誰も不眠の理由や解決法を教えてくれず、いつ治るか・どうやったら治るかわからないまま症状だけはひどくなっていくという繰り返しでした。不安でたまりませんでした。
 
「自分はおかしいのではないか」、「ずっとこのままじゃないのか」という恐怖も常につきまとっていました。
 
しかし、仕組みがわかったことで不安が減り、前を向いて治療を進めていくことができました。認知行動療法に出会ったからこそ、前向きになれたのだと思います。

さいごに:サポートしてくれる人の大切さ

仲間

私がカウンセリングを通して実践した、認知行動療法は薬を使わない治療法です。実践しようと思えば病院に行かずともできる方法です。しかし、私の経験としては、1人で実践するのはなかなか大変だなと思いました。先程説明したように、はじめはうまくいかないことも多かったのです。
 
睡眠記録を見ながら、「あ、また今日もできなかった・・・」、と落ち込むことも少なくありませんでした。「自分には認知行動療法を実践するのは無理なのかもしれない」と諦めかけることもありました。
 
しかし、数週間に一回の診察で先生ができなかった部分よりできた部分を褒めてくださったり、実行しやすい工夫を教えてくれたりサポートしてもらえました。一緒に自分の不眠と向き合ってくれる専門家がいたことが、本当に心強かったのです。
 
認知行動療法はどこの病院でも受けられる治療法ではないので、現実的に難しいこともありますがうまく病院を利用したり、誰かと一緒にやったり、友人や家族にサポートしてもらうことがこの方法を実践するコツだと思います。
 
次回は引き続き認知行動療法による減薬の体験談を書いていきたいと思います。

photo:Getty Images

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